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カルテメモ

昔、私は外来カルテに診察結果や問診以外にもたくさんの書き込みをしていました。記憶力に自信がないので、「来週から東京の娘さんの所に遊びに行く」「昨日タケノコ堀りをしてきた」「孫が今年高校受験だ」「夫婦げんかをしてしまってまだ謝ってない」「最近○○という名のイヌを飼い始めた」など、診療中にでてきた日常のたわいない話題をメモしていたのです。次の診療は、「娘さんは元気でしたか?」「もう仲直りしましたか?」などの話から始まります。最初はキョトンとした顔をする患者さんもすぐに何のことかわかって必ず笑顔で返事をくれます。その後で「ところで、調子はどうですか?」となるのが、私の外来の常でした。

医者は、人間を相手に診療するのであって病気を相手にする訳ではないと思っています。残念ながら全ての情報を空で覚えられる才能がないのでメモをしています。つまり、カルテに診療と関係ないメモが多くなればなるほど、その人との繋がりが深くなっていることを物語っています。そして、そういう関係にならないと、相手は決して本当のことや思っていることを話してはくれません。ある病院に何度めかの出向で行った時に「先生がまた来たって噂を聞いたから来てみたよ」と云って久々に受診してくれた患者さんの笑顔を今でも忘れません。

保健所の監査があり、「カルテはメモではない。カルテは公文書なので診療に関係のあるものしか書いてはいけない!」とのお叱りを受けました。それ以降、一口メモの類は禁止になりました。それでも私は無視して書いていましたが、さすがに今のような電子カルテの世界になると、そんな余地は皆無になってしまうことでしょう。

カルテの中から患者さんの顔が消えてしまう。ちょっと寂しい気がしますが、それが時代でしょうか。勤務医ならではの愚痴なのかもしれませんが。

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日記・コラム・つぶやき」カテゴリの記事

コメント

いい文章ですね。特に、人間相手で、病気相手ではないないという考えは、患者としては嬉しい。

投稿: イーダです | 2008年1月27日 (日) 14時26分

コメントありがとうございました。

まあ、私が学者さんになれなかったのはそのためだったんでしょうけれど。

これからもよろしくお願いします。

投稿: ジャイ0425 | 2008年1月27日 (日) 20時53分

私の場合は薬歴簿というものになりますが、カルテの件、そのお気持ち、よく判ります。患者さんのいろんなエピソードとかつい書き残したくなります。亡くなられた患者さんのご家族とかにその方の生きてこられた記録の一つとして差し上げたくなることがあります。もちろんそのようなことはできませんが(苦笑)・・薬剤師の場合、担当が決まっているわけではないので他の方にはもしかしたら不快かもしれないので控えめに・・不快な思いをされましたらお許しください(涙)

投稿: ロバ | 2016年3月30日 (水) 23時36分

ロバさん

本当にココロを許してくれた患者さんは、ご家族にも話したことのないことをいろいろ教えてくれます。今は健診の仕事なので、正式なカルテではないことを良い事にPCの記事欄に時間の許す限り秘密を記録・・・自分以外にも見られてしまうから、本当は怒られそうですが(笑)

投稿: ジャイ | 2016年3月31日 (木) 06時39分

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