あなたは病人です!
一方で、全く逆の意見のように見えますが、生活習慣病に対しては「自分は病人である」ということを自覚した方が人生がずっと楽になる、というのが私の持論です。広報誌の連載コラムの中からそんな記事を転載します(2005年7月号「健やかな病人になる」~生活習慣病入門の心得)。
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「あなたは病人ですか?」
残念ながら、多くの現代人は病人です。「私は違うわ」と思っているあなたもきっと病人です。少なくとも私は病人です。今の世は病人だらけです。病気のこと、特に生活習慣病のことは皆さん詳しく知っています。なのに「コレステロールが高い」といいながら、それが病気だとは思っていません。「それを『高脂血症』と言いまして、今夜、何の前ぶれもなく突然に心筋梗塞になって倒れてもおかしくないという意味ですから、家族にはきちんと伝えておいてください。」私は皮肉を込めてそう言います。血糖が高いけど糖尿病とはいわれていないとか、血圧は高いけど薬はいらないから高血圧ではないとか、どうしても病気と認めたがりません。「血糖が高いことを『糖尿病』というんです。血圧が高いことを『高血圧症』というんです。それが予備軍だろうと正規軍だろうと、どうせ同じ事をするんだから無駄な抵抗はやめましょうよ。」・・・私は、健診結果を説明しながら、いつもそう思います。
実体のない「健康」の文字に必死でしがみつきたがるのはどうしてなのでしょう。医学は常に「病気」を相手にしてきました。「健康」は当然あるべきものでしたから「健康とは何か?」などの論議は無用でした。「病気」は常に悪であり退治すべき対象でした。だから「病人」は落第生の証なのかもしれません。一度認めたら最後、まるで修行僧のように食べたい物は食べられなくなり、新興宗教のように黙々とただ歩かされ、挙げ句の果てに毒薬を一生飲まされる。とんでもない!死んでも首をタテには振るまい、といったところでしょうか。
ところが今の世は病気だらけなのですから、「健康」には定義がいります。”心身ともに爽快で毎日を明るく楽しく送れること”と定義してみましょう。そうすると、似非健康人の皆さんが「やばいかな」とか考えながらケーキを食べる行為はバツ。高血圧の私が運動後に気分良く握り飯を頬張るのはマル。脳梗塞で麻痺になった患者さんが頑張って歩けるようになったら三重マル。これはなかなかいけてます。病人なのに健康でいられます。生活習慣病は遺伝病です。同じものを食べて同じことをしても自分だけ病気になる体質ですからもっとゆっくりつき合いましょう。2,3年前から私は高血圧ですし、油断するとすぐ太ります。隠すことなく私は病人です。でもそのおかげで私は動くことと食べることの面白さを知りました。「あなたは病人ですか?」の問いには、迷うことなく「私は病人です。これからも『健やかな病人』であり続けたいと思います。」と答えます。「正常」にしがみついて汲々とするより、病人の人生をうまくコントロールして楽しんだ方がずっと面白い。これからの人生に面白いことがもっと沢山あるはずだと信じています。
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