恩師の遺言
私が尊敬する、私を今の職場に呼んでくれた恩師は、若くして脳腫瘍で亡くなりました。彼が腫瘍の診断を受けて入院した3日後、私たちスタッフは順番に病室に呼ばれました。「脳の病気は最後に頭がおかしくなるから、自分の頭がはっきりしている間に云っておきたいこと云っておく。それを済ませたら、私は私の病気との戦いに専念して、そして勝って帰ってくる。」彼は淡々とそう語りました。
「キミの云っていることはいつも蓋し正論。そしてその正論をキミはいつもきちんと実行できる。素晴らしいと思って感心している。でも、世の中には、キミのようにきちんとできる人間よりできない人間の方がはるかに多いことを忘れてはいけないと思う。云われていることに間違いがないからこそ、できなかった相手は逃げ道がなくなる。これから人の上に立つようになってくると、煙たがられるようになり、さらに反感を持たれるようになるかもしれない。それが一番心配だ。これから、他人に指導をするときには、いつも、相手にそっと逃げ道を作ってあげるようにしてみてもらえないか。きっとキミにはそれができると思う。」
それが、私に対する遺言でした。
私はその時から、物事に対する考え方を大きく変えることになりました。人を見る目も自分を見る目もすこぶる楽になりました。無理をすることなく、自然に変わっていけたのは、それが「必然」の時期だったのだと、まるで某TV番組の様なことを思ったりしています。まだまだ恩師の遺言で要求された域には全く達しませんが、あれがなかったら、そして彼に出会うことがなかったら、私の人生は全く違っていただろうと思います(もちろん「必然」ですからあるべくしてあったエピソードなのでしょうが)。
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