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深呼吸

診察のために椅子に対座します。

聴診器を当てると、老若男女を問わず、条件反射のように大きく深呼吸を始める人が少なくありません。「いいですよ」と云うまで延々と続けてくれます。私の友人も、「診察時の深呼吸のしかたが上手いと先生に褒められたことがある」と云っていました。人によっては、良い頃合いに反対向き(背中向き)に座り直そうとしてくれることもあります。

一体、いつ、誰が、こんなことを教育したのでしょうか?子どもの頃、学校の集団健診で怖い校医の先生に診てもらうために並んで順番待ちした時の記憶が最初でしょうか。あるいは、風邪をひく度に行く近所の内科医院で、緊張しながら先生の指示を先取りするようになったのがきっかけでしょうか。良い意味でも悪い意味でも、日本人は子どもの頃からよく教育されているなあ、と感心させられます。青年期、中年期にやらなくなり、そして老年期になるとまた大きな深呼吸を始めてくれます。これは行きつけの先生のご指導でしょうか。

ただ、私の専門は循環器内科です。聴診器で、もちろん肺の音も聞きますが、基本的にはまず心臓の音を聞くのが習慣です。ところが、深呼吸されると肺に入る音が大きすぎて、心臓の音が聞こえにくくなったり、弁膜症や先天性の病気の発見につながる心臓の雑音がわからなくなってしまいます。だから、一生懸命深呼吸しているのに申し訳ないのですが、あえて「息を止めてください」と頼まなければなりません。

できたら、聴診器=深呼吸のすり込み反射は、行きつけの家庭医の先生の前だけにしておいた方がいいかもしれません。

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