« 2008年2月 | トップページ | 2008年4月 »

2008年3月

ガバ下がり

10年前に急逝して突然私達の前から居なくなった同僚のK先生は、多くのスタッフからとても慕われていました。

ある飲み会で、彼はあまり呑めない酒で顔を赤らめながら私に話しかけてきました。「熊本に帰ってきてからずっと気になっていることがあるんです。熊本の人は『ガバ』って使うでしょ?『心電図のSTがガバ下がりした』とか『ガバ上がりしてる』とか。この『ガバ』って何ミリ以上のことをいうんですか?『ガバ』の定義が曖昧すぎると思うんです!」狭心症や心筋梗塞の発作を起こすと、心電図のSTという部分が基本線からずれてきます。その程度が発作の重症度を示します。不満を熱く語りながら、それでも彼の顔は優しい笑顔に溢れていました。

通夜で上司が弔辞を読みました。
「先生は、ナースにとても人気がありました。先生はいつも『面倒な症例やみんなが嫌がる患者さんをできるだけ自分でみるようにしているだけですよ』と、笑いながら言ってましたね。それがいとも平然とできるから、先生はスタッフのみんなに慕われて信頼されているんだなと解りました。。。。」

それを聞きながら、なりふりかまわず号泣したことを覚えています。

悟りを開いた順にこの世から居なくなるしきたりは、ちょっと勘弁してほしいなあ、と思います。

| | コメント (0)

同僚の死

「『Ai』知っていますか」

という記事が新聞に載っていました。「Autopsy Imaging」:死亡時(剖検的)画像診断とでも訳すのでしょうか。病院で亡くなった人や死亡状態で病院に到着した人に対して、死亡原因を究明するために死亡確認後にCT検査やMRI検査を行うものです。先日たまたま小説「チーム・バチスタの栄光」を読んでいて初めて「Ai」という単語を知りましたが、この学会自体はもう4年の歴史があるようです。この検査そのものは、救急医療に携わってきた医療人として20年以上の遠い昔から行ってきましたので、私は世間で想像するほどの驚きはありません。

約10年前、私より1歳年上の同僚が突然亡くなりました。いつもの朝のカンファレンスをしている最中に、その知らせは届きました。朝、自室から起きてこない夫の変わり果てた姿を見つけたのは奥さんだったそうです。お父さんが入院してその看病でもかなり疲れていたとの話を後で聞きました。枕元にニトログリセリン(狭心症の治療薬)のカラがあったとか、ヘビースモーカーだったとかから、心筋梗塞を起こしたのではないかとも推測されましたが、原因はわかりませんでした。彼をあえて自宅から私たちの病院まで運んでもらってCT検査をしたことを覚えています。

その時のCT所見云々より、生前は年齢よりかなり若く見えていた彼の顔が、年齢相応の顔になってしまっていたことの方が強く印象に残っています。彼のひとり息子もそろそろ成人になったのではないでしょうか。

| | コメント (0)

血圧は何度も測らない!

昔、循環器内科の当直をしていた頃、夜遅くに、ある患者さんから相談の電話がありました。

高血圧のクスリを毎朝1錠内服している。寝る前に血圧を測ったらいつもより10mmHgくらい高かった。最近そんなことはなかったのでとても気になって何度か測ったが、測る度に数値が上がってとうとうとんでもない数値になった。最初はどうもなかったのに何か頭も痛くなったような気がする。寝る前に飲む安定剤も飲んでみたが治まらない。とても心配だから今から救急外来を受診してもいいか?という内容でした。

この方の場合、一番いい方法は、翌朝まで二度と血圧を測らないことです。どうせ測っても上がるばかりです。よく、外来などで血圧がちょっと高かったときに大きな深呼吸をしてから測定のし直しをしたりします。本人の満足のためにしていますが、実はほとんど意味はありません。普通の方の場合、血圧は最初に測った値にしか意味がないと言い切ってもいいでしょう。それ以降の測定の繰り返しは、単なる自律神経への「いたぶり」です。くどいですが、血圧は簡単に変動するものです。「あれ?何で高くなったの?」と思っただけで、あるいは「また高くなったらどうしよう」と思いながら血圧計を眺めるだけで、すぐに上がってしまいます。

結局、この方には心配ないことを説明し、安定剤をもう一度飲んで床に入ることをお薦めしました。気にするなと云っても無理ですが、眠れなくていいから目を閉じて横になっておいてください。一眠りできたらきっと落ち着きます。それでも心配な時は私が診察をしますからいつでも救急外来に来てください、と付け加えました。その後どうだったのかは知りませんが、本人の朝が当直明けの私と同じくらいすっきりしていたことを祈ります。

| | コメント (0)

日頃は高くないんです(その2)

高血圧なんて全く縁がない、と思いこんでいる人の中に、ずっと血圧が高いままの人と同じくらい脳卒中になりやすい人がいます。実は、病院や健診の時だけ血圧が正常の人も少なくないことが分かってきました。これを「逆白衣高血圧」とか「仮面高血圧」とか云います。

朝だけ高くなる「早朝高血圧」は、起きて顔を洗ったり朝食を取ったりするうちに下がるパターンで、昼間には正常になるので自分が高血圧だと気付きません。高血圧のクスリを飲んでいる人にも時々みられますので、クスリを朝に服用する人は必ず朝の服用前の血圧を基準にしてください。内服前の血圧が高いのであればコントロールは不良です。睡眠時無呼吸の存在が隠れている可能性もあります。

昼間、仕事中にはいつもカリカリして血圧が上がっているのに、何故か健診の時だけは正常、というパターンの人もいます。「職場高血圧」とか「職場環境下高血圧」と云います。こういう仕事人間パターンの人もまたあるとき突然脳卒中になる危険性があるのです。

日本人の高血圧は、症状がありません。「具合が悪いときに血圧を測ったら高かった」というのは当たり前のことで、極端に高値でない限りは高血圧症とは関係がありません。今は、家庭で血圧を測ることが推奨されています。自分の日頃を良く知っておいてください。1回しか測れないなら、朝起きてトイレに行った後の血圧を、もし2回測れるなら夜と朝の血圧(大きな差がないのが理想)を測ってみるとよいと思います。休みの日だけでもかまいません。それが、本当の意味での「日頃の血圧」です。

| | コメント (0)

日頃は高くないんです(その1)

「高血圧です。専門医で治療を受けてください。」・・・健診結果報告書とともに紹介状が送られてきました。でも、あなたはその結果がすごく不満です。

「日頃は高くないんです。健診の時だけ高くなるんです。機械がおかしいんじゃないですか?」「変だ。こないだ温泉センターで測ったら普通だったのに!」・・・健診以外で測ったら問題ないから自分は高血圧ではない!と主張する人がいます。あるいは、前日がちょうど宴会だったとか、2~3日前まで旅行していたとか、健診の前夜に良く眠れなかったとか、たまたま高かった理由付けを必死に考える人もいます。

でも、諦めてください。高血圧は高血圧です。血圧なんてすぐに変動します。測定した時に基準値より高ければ「高血圧」と云いますし、そんな高値の状態が病院や健診現場で少なくとも2~3回以上認められる場合を「高血圧症」ということになっているのです。日頃は高くないのに健診や病院などで測った時だけ高い高血圧症を「白衣高血圧症」と呼んで区別しています。

「白衣高血圧症」は、脳卒中の発症率という点では正常者とあまり変わりなく、一般的には内服治療の対象にならないことが多いのですが、極端に血圧差がある人を除けば、本当の白衣高血圧かどうかは判定が難しいのも事実です。また、標的臓器の障害や心臓の微細血管への影響などがあると云われており、決して無害ではないことも覚えておいてください。

ちなみに、タバコ一服後に血圧を測れば簡単に10~20mmHgくらいは上昇します。待ち時間が手持ちぶさたでもちょっと我慢しておいた方が無難です。

| | コメント (0)

「心臓の暗号」

せっかく埃の中から引っ張り出した本なので、各章の頭に書かれた名言を写してみました。全14個のうち私が気に入った9個だけを並べてみます。サイエンスの本なのに、科学と云うより心理学や哲学や宗教学に通じるものが多く、私はつくづく理系ではないなと思います。

●「心はわかっていても、頭は否定する。ほかに方法があるだろうか?」(スティーブン・ソンダイム)

●「心臓にはそれなりの道理がある。ただ道理のほうが気づいていないだけだ」(ブレーズ・パスカル)

●「自然の法則を越えるような奇跡は存在しない。奇跡とは、自然の法則に関する我々の知識を超えて起こるものを指しているだけだ」(聖アウグスティヌス)

●「氷になってしまった水は、かつて水だったことを覚えているだろうか?」(カール・サンドバーグ)

●「私はなんとすばらしい人生を生きてきたのか!願わくば、もっと早くそのことに気づきたかった」(コレット)

●「真の発見の旅とは、新しい大地を探しもとめることではなく、新しい目でものを見ることだ」(マルセル・プルートス)

●「この世にあるすべてのものには、隠された意味がある。人間、動物、樹木、星、すべては何かの象徴だ」(ニコス・カザンザキス「その男ゾルバ」より)

●「二つの人格の出会いは、ちょうど異なる化学物質の接触のようだ。反応が起これば、どちらも変質する」(カール・ユング)

●「良かれと思うことを心に押しつけるのをやめれば、心は魔法を降りそそぐ。苦痛のさなかにあっても、歓喜の瞬間へいざなってくれるはずだ」(トマス・ムーア)

| | コメント (0)

ムシの知らせ時

私の知り合いのある内科の先生がうちの人間ドックを受けに来ました。「何となく受けてみようかなと思って」というふざけた受診理由でしたが、約10年ぶりに全大腸内視鏡検査を受けたら、大きな腫瘍がみつかりました。あまり「医学的」ではありませんが、こういうことって良くあると思いませんか?いわゆる「ムシの知らせ時」というやつです。

身体から「何かがおかしい」というシグナルを出した場合、<理性>で論理的に処理しようとする「脳」はそれを「気のせい」で片づけようとし、<感性>で反応する「心臓」はそれに耳を貸して自律神経を促す。これまで脳にしかないと思われていた仕事を実は心臓も受け持っており、心臓は思考し細胞は記憶し、かすかな生命エネルギーという形で体中に伝えている。そういう考え方の本を読んだことがあります。家の書棚の中からやっと見つけだしました。著者は医者であり心理学者でもあるアメリカ人です。

「心臓の暗号」(ポールピアソール著・藤井留美訳、角川書店)http://www.bk1.jp/product/01699674

循環器内科が専門の私ですが、読んで納得できました。いわゆる「科学者」という石頭になっていない私の思考回路に安堵したことを覚えています。

頭(脳)と心(心臓)という二重支配があり、各々に体に指令を出します。脳は理論に裏打ちされた理性で、心臓は体中に配備しておいた自律神経(1の子分)と筋肉(2の子分)の出す情報を感性で聞き出して。ちょうど口うるさい上司(脳)といつも相談相手になってくれる先輩(心臓)がいるようなもので、だから体は心が好きで、つい本音まで伝えてしまうんです。

・・・ちゃんと付いてきていますか?変人扱いされても困るから、あとは興味がある方だけが本を読んでください。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

サルコペニア

昨日の早朝の健康番組に「サルコペニア(Sarcopenia)」という単語が出てきました。私は初めて聞く言葉でしたが、そのまま訳せば「筋肉減少症」という感じになるのでしょうか。加齢に伴う筋力低下・筋肉量減少が原因で日常生活に支障をきたしたり転倒の危険性が急増したりすることで問題になります。

たしかに、世間でもてはやされている「有酸素運動」はメタボ対策の脂肪燃焼と云う点では有効ですが、有酸素運動だけではサルコペニア予防・老化防止(アンチエイジング)には直接には有効とはいえません。特に高齢者であればあるだけ、筋肉が老化しないように、若い人以上にレジスタンストレーニング(テレビでは「無酸素運動」と云っていましたが、筋肉トレーニングとかレジスタンストレーニングとかの方が当を得ていると思います。筋トレの時に息を止めるのはNGです)が重要であるというのが、ここ数年の常識になってきました。

また、心臓リハビリテーションの考え方もここ数年で大きく変わってきました。これまで、心不全の人だとか、重症の心筋梗塞になった人、心臓手術を受けた人などは、できるだけ心負荷をかけないような日常を過ごすのが常識でした。ある程度の有酸素運動は推奨されましたが、彼らに対するレジスタンストレーニングなどは以ての外だと思われていました。でも現在、心臓リハビリテーションでは、専門家の指示に従ったものであれば、レジスタンストレーニングもきわめて有効であることがわかってきています。

筋肉の低下はそのまま老化につながります。どうぞ積極的にトライしてください。ただし、もちろん自己流はとても危険です。かえって障害を強める結果になったのでは本末転倒です。必ず専門家(健康運動指導士やトレーナー、理学療法士など)の指導の元で頑張ってください。

| | コメント (2)

過ぎたるは及ばざるより悪し

「カルシウム摂取は健康な閉経後女性の心血管疾患の発症率を上げる」という論文がアメリカから発表されたそうです(M.J.Bolland, et al. BMJ 2008;336)。骨粗鬆症を予防し、高齢女性の善玉(HDL)コレステロールの上昇も期待でき、メンタル的な安定化にも大事な役割を果たすカルシウムを、サプリメントとして摂っている女性は少なくないと推測しますし、カルシウム不足の現代社会ではカルシウムは摂れるだけ摂るに越したことはないと考える方も多いはずです。私の手元に届いた医療情報誌によりますと、55歳以上の女性を対象にした研究で、毎日カルシウムサプリを飲んでいる人は飲んでない人より心筋梗塞の発症数が有意に多くなり、脳卒中や突然死の発生数がやや多かったというのです。骨粗鬆症の予防をしようとしてたら心筋梗塞になった、などという笑えない危険性のデータではありますが、その原因はわかっていません。もし、服用している高齢女性の方がいましたら、やめなくてもよいので、用法用量をお守りの上、ちょっと注目しておいてください。

なお、サプリメントを使う場合には次の点も注意してください。

●「○○が入っている」「△△配合」と書かれていても、問題はその量です。必要十分量含まれていないとサプリとしての意味がありません(特に破格に安いときには含有量の確認を)。

●何でも多く摂れば摂るほど良いというわけではありません。多すぎると体外に出て無駄になるものや多すぎると体内蓄積して身体に悪影響を及ぼすものもあります。何の目的に使うサプリかを確認しながら適量を守って飲んでください。

●一般的にサプリには主成分だけが入ってはいません。効率よく吸収されて効果が出るように一緒に配合された物質の内容と量も確認してください。全く別の目的のサプリをいくつも重ねているうちに、隠し味として配合されていた物質だけが異常に多くなる(カロリーが多くなりすぎるなど)危険性もあります。

| | コメント (0)

ん~そうだよねぇ。

先日、職場の送別会がありました。春から新しい分野に挑戦する若い保健師さんがいます。お湯割り焼酎を飲みながら、ビールをかかえて彼女をねぎらいに行きました。

「先生。先生はもう少しお酒を控えた方が良いと思います。」とても明るい笑顔をいつも絶やさなかった彼女が、開口一番、いつになく真面目な顔をして私にそう云いました。「ん~そうだよねぇ。でも最近は月水金禁酒にしてるよ!この焼酎だってお湯みたいなもんだし~。」などと茶化してみても、この日は表情を変えません。「それでも先生はお酒をもっと控えた方が良いと思います。ピーナッツも食べ過ぎないでください!」「そうだよねぇ。でも、一袋なくなるまで止めきらんもんねぇ。」・・・実は、本当にありがたいことだと思っています。専門だとはいえ、なかなか医者には云いにくいものです。同じ言葉でも、妻から云われるよりはるかに堪えます。

でも。でも・・・できるかなぁ。分かってはいるんだけど・・・できるかなぁ。健診受診者さんの気持ちがよく分かる気がします。今が生活の変え時。その必要性もそれなりに理解し、心の準備はできているつもり。そこに保健師さんの優しい後押しがあって、「やっぱりそうだよねぇ」と思う時。それでもまだ、自分の前には広くはないけどちょっと飛ばないと越せない小川が流れているのです。健診を受けた日が小川を飛び越える最大のタイミングですが・・・あと一押し!何かがいるんですね。ほんのちょっとの一歩でいいのに、まるでバンジージャンプか高飛び込みの台の上の心境。だから「でも・・・」と、しつこく言い訳を考えるのです。

でも、今回は私も、大好きな若い仲間から逆餞(はなむけ)の言葉をもらったと思って、少しでも何かを変えてみましょう。どなたか、私と一緒にチャレンジ競争してみる人いませんか?

| | コメント (0)

「肌色」は何色?

先日、あるアフリカ系カナダ人の方が話していたラジオの内容にじっと耳を傾けてしまいました。日本人の奥さんとの間に生まれた娘さんの肌の色は茶褐色で、そのために学校でいじめられました・・・「その色を『肌色』にしないと遊んでやらない」と。

ここには2つの大きな問題を抱えています。日本人は東アジア系民族でない人をみるとすぐに「外人」「外国人」と云います。最近は外国出身の人の中に日本国籍を取得する人が増えてきましたが、それでも高見山大五郎や三都主アレサンドロを初めて見て、誰も「日本人かもしれない」とは思わないでしょう。日本はほぼ同一民族の(アイヌ民族などの問題はありますが)国でしたので、そういう異文化の混入に慣れていないのもやむを得ません。今ブレイク中の黒人演歌歌手ジェロはたしかに日本語が上手すぎるけれど、やっぱり彼の姿形は「外人」。

そしてもうひとつの問題は、「肌色」って何色?ということです。最近のクレヨンや色鉛筆の名前には「はだいろ」というのがないはずです。「肌色」は差別用語だと云うことで使わなくなったそうです。肌の色には黄色も白も褐色も黒もいろいろあるのに、どうして黄色人種の肌の色を「肌色」と云うのか、というクレームからだそうです。たしかにその話を聞きながら「なるほどその通りだなあ」と感心しました。ただ、その一方で、その色のことを無理やりに別の呼び方にすることにも大きな違和感を感じます。「日本の固有民族の肌の色のことを『肌色』と呼んでいます」では、なぜいけないのでしょうか?このことを「肌色」と呼ぶということと、肌の色がいろいろあってもみんな一緒だということを教育することとを別の問題として考えられないのでしょうか?そんなに余裕のない社会になってしまったのかなあ?

| | コメント (0)

アスパルテーム

「カロリーオフ」「糖質オフ」は、メタボ克服のための必須条件のように語られています。糖質が入ってないのに砂糖よりはるかに甘い「甘味料」が見えないところで大きな役目を果たしています。先日ノンカロリー系のコーラの缶を手に取ってみました。その缶の裏面を読むと最初に目に入るのが「アスパルテーム(人工甘味料)」。この物質を、皆さんはご存じですか?

非糖質系甘味料には、天然甘味料(ステビアなど)と人工甘味料(アスパルテーム、スクラロースやサッカリンなど)があり、これらの毒性や人体への影響が一時期かなり話題になったので使用が下火になっていたのかと思ったら、そうでもないんですね。一応お上が「健康に無害」と結論をだしたからなんだとか?正直、とても怖い話だと思います。http://www.mitomo.com/doc/diet.htm、 http://www.sweetnet.com/nikki/2008/01/post_158.html

例えばダイエットコーラとコカコーラゼロにはしっかりとアスパルテームが入っていますが、元祖の「コカ・コーラ」にはほとんど入っていません。コーラ中毒のためにどうしても大量飲まないと手が震えてしまうというのでなければ、たとえ45Cal/100mlのカロリーが入るとしてもオリジナルのコーラを少量飲んだ方がよっぽど身のためです。

食品添加物の問題は奥が深い上に、タバコの世界と同様に、信じられないくらい胡散臭い政治と金が絡んでいますのであまり言及する気はありませんが、甘味料のような物質は一回一回が少量でも結果として大量になってしまいますので十分ご注意ください。塩にしても、人間の存続に必要な天然の塩と工場で作ったNaClが同じものだ(あるいはNaClの方が純度が高くて理想的だ)と思ってはいませんか?安くて安定供給できてしかも儲かるからNaCl(食卓塩)ができたということを、今さら書かなくても大丈夫だと信じます。

| | コメント (0)

現場検証

昨年秋、交差点でバイクと接触事故を起こしてしまいました。幸いバイクの運転手さんのとっさの反応が良かったのでお互いに大きなケガやキズになりませんでしたが、急停車時に首と背中を痛めた相手の治療のため、物損事故から人身事故扱いに変更になりました。そのため、正式な現場検証は事故から約1ヶ月後に行われました。約束の時間に現れた担当警察官は、早速手際よく尋問と検証を始めました。

「対向車線に入るためにハンドルを切った地点はどこですか?」「ごく普通に右折車線から徐行して切りました」「だからどこですか?」「良く覚えていませんがたぶんこの辺です」「たぶんではなくて、ここ?ここでいいですか?」彼は、指し棒をかざしながらワンポイントを求めてきます。「ここでいいですね。でも、ここだとするとかなり膨らんで交差点に入り込んだことになりますね」チョークで印を付けながら一人で納得している様子です。普通に入ったんだから、膨らんで入ってないんだからその点間違えてるんじゃ?と思いましたが、大勢に影響はないので黙っておきました。「バイクが走ってきているのに気づいたのはどこですか?」「急ブレーキの音がしたときです」「では急ブレーキの音に気づいたとき運転中のあなたは道路のどの辺にいましたか?」「わかりません。そこまで冷静なら事故起こしません」私の皮肉など全く無視して「思い出してください」「じゃあ、ここでいいです」「ここですね?では、写真を撮りますのでここを指さしてください」・・・・。バイクの運転手さんにも似たような検証が続きました。お互いに諦め顔でそろって道路の真ん中で記念撮影をしました。

確かに調書は曖昧にかけませんから彼の云うことは良くわかります。真実はひとつでしょう。でも、1ヶ月も前の予期せぬ事故の状況を事故が起きる前から横で見ていたかのように覚えていることの方が不思議でしょう、と思いながら、その後のお小言までありがたくいただきました。最後に「それじゃあ、確認します。仕事に向かう途中、職場の近くの交差点で・・」「いえ。向かう途中じゃなくて帰る途中です」「え?帰る途中?・・・」彼の口が一瞬止まりました。「ま、いいか」・・・おいおい。そこはそれでいいのかい?

なんか急に思い出したので書いてみましたが、その時の彼の顔を思い出したら可笑しくなりました。みんなそれなりに仕事は大変ですね。

| | コメント (0)

検診と健診

年に1回の職員健診がありました。

皆さんは、「検診」と「健診」の違いを理解していますか?「検診」は標的となる臓器に病気がないかを検査することですから、「胃がん検診」とか「結核検診」とか「子宮がん検診」とかいうものです。「健診」は「健康診査」の略ですから、簡単に云えば「自分の健康度を評価して確認する」ということになります。「職員健診」とか「基本健診(住民健診)」とかいうものです。

ですから、職員健診や住民健診を受けた場合は、「異常」とか「要精密検査」とかいう項目ばかりをサラッと探して一喜一憂するのではなく、むしろ「異常なし」と書かれた項目が以前と比べて増えたとか減ったとか、あるいは「異常なし」であれ「軽度異常」であれ、値自体が前回より良くなったか悪くなったか、などをきちんと眺めて確認してほしいと思います。「どこかに悪いところがあったか」ということよりも、結論として「今、自分は健康か」ということに対する答えをもらうものだと理解しておけば良いのではないでしょうか。

以前、「婦人科健診」を「検診」にするか「健診」にするか揉めたことがあります。がんなどの異常を探すなら「検診」、婦人科臓器の健康度を確認するなら「健診」、せっかく恥ずかしい思いをして検査をするのであれば、する側もされる側もやはり「健診」という想いで行ってほしいと思います。

ちなみに、今年の身長は昨年より伸びていました。実は昨年も一昨年より伸びていました。これは自慢です。今さら成長するわけはないので、きっと背筋を伸ばすように意識してきた成果だと自負しています。大腸ポリープが退縮していたことや体重が1.5kg減量できていたことよりはるかに嬉しい事実でした。

| | コメント (0)

自動巻きと体内時計

職場の広報誌に寄稿しているコラムの転載(一部訂正)です。今回は2006年10月号です。

************************************

自動巻きと体内時計

20年ぶりに腕時計を買い換えました。初めて腕時計を買ってもらったのはもう40年近く前のことです。バス通学のために買ってもらったその腕時計は当時としては画期的な自動巻きでした。腕に巻いておけば竜頭を定期的に巻かなくてよいのです。次に買った時計は結婚の頃で、電池式でした。ほったらかしても止まらないなんて凄いなあと思いました。最近は、電池交換が不要なソーラー電池だの標準時刻に自動調節する電波ウオッチだのと、さらに進んだ機能を誇示しています。でも、私が先日買った時計は、再び自動巻きです。昔と同じように日付もついています。当時あれだけ感動した自動巻き腕時計ですが、これが意外に不便です。微妙に狂うので時々時刻あわせをします。そして何よりも、2ヶ月に1回は手動で日付のリセットをしなければなりません。今時こんなことまで面倒みなきゃならないなんて鬱陶しい、と思いました。

体内時計というものがあります。体内時計のリズムは1日25時間だそうです。それを地球周期の24時間リズムに合わせるために、毎朝リセットボタンを押す作業が必要です。それを行う物質を「BMAL1(ビーマルワン)」といいます。夜に急増して脂肪細胞に脂肪をため込ませる物質でもあり、「夜中にものを食うと太る原因」として近年ちょっとしたブームになりました。目が朝日の光刺激を受けるとBMAL1の量がグンと減って、それがリセットボタンを押す合図になります。さらにおもしろいのは、その光刺激が松果体というところにあるメラトニンという物質を分泌させます。別名「時計ホルモン」といわれるこの物質は約14時間後に睡眠を促すスイッチを入れるそうです。人間はもともと体内にそんな精巧な時計を持っています。ですが、それがきちんと作動するための重要なポイントは「朝日を浴びること」です。それはまぎれもなく、人間の身体が太陽とともに朝起きて夜寝るように太古の昔から決められてきた生物であることを示しています。

ところが現代人はそうはいきません。暗黒の闇であるはずの夜中に起き出て煌々と輝く世界でバリバリ活動しています。せっかく精巧に仕組んでおいた体内時計は、リセットスイッチが入らないので徐々に狂い始めます。身体の隅々まで細かに調節する自律神経も体内時計に合わせて1日を活動していますから、その狂いが昨今の自律神経失調症状を引き起こし、代謝にまで影響を与えています。体内時計は、まさしく自動巻き時計と同じです。自らあるべきリズムで動かしている限り存在を意識する必要もなくきちんと時を刻みますが、動かさないと徐々に狂ってきます。本来全自動で行われているはずのリセット作業も、時々手動で修復させる必要があります。ことは人類の存続に関するきわめて重大な話ですが、それが「朝日を浴びる」という行為で修正できるのなら、ちょっと布団の暖かみが恋しくなってくる秋ですが、早起きして朝日に向かって伸びなどしてみる価値はありそうです。いつも正確だと思っていたあなたの「腹時計」が少しずつ狂ってきていたことにもきっと気付くでしょう。

| | コメント (0)

不整脈は孫のごとし

不整脈に悩んでいる方がたくさんおられます。不整脈には、自覚症状がなくても精密検査や治療を必要とするようなとても危険なものから、症状が強くてもほとんど治療の必要のないものまで、千差万別です。精密検査を指示されたり、動悸が強くて不安なときには早めに専門医を受診しましょう。まずはそれが先決です。結果によって今後の注意点もきちんと聞いてください。

さて、諸検査の結果、特に生活制限や内服治療は必要ない不整脈であることがわかると、医療現場は「治療不要」のレッテルと共にあなたを院外に簡単に放り出してしまいます。「心配ないから気にしないようにしてください」と云われても、夜中にドキドキするこの症状は消えはしません。気にするなと云われるほど気になるもので、不安な日々に悶々とすることでしょう。

こんな時、私は「不整脈はお孫さんを相手にしているようなものです」というお話をします。心臓に原因がない不整脈は、基本的には自律神経が織りなすイタズラです。不整脈のうち、余分な心拍が入り込むタイプのものは交感神経(神経を高ぶらせる働き)が興奮状態になると出やすくなります。それは、小さなお孫さんが面白がってイタズラを続けているのと同じです。相手をしてあげている限りは面白がって続けますが、無視して相手をしなくなるとつまらないのでイタズラをやめてしまいます。不整脈も、気になり始めると面白がって出てきますが無視されるといつの間にか消えていくものです。ただ、その「無視」ができない。だからお孫さんと同じなんですね。

かわいいお孫さんならイタズラも甘んじて受けることでしょう。不整脈が出る時には、またいつものイタズラが始まったと思って眺めておいてください。そのうち相手の方から興味が他に移っていきます。消えてしまったらしまったで、それもまた何か寂しいものです。

| | コメント (0)

90歳の隣りのじいさん

ある企業で、生活習慣病の人たちを集めたセミナーを企画しました。そのときに参加者の方から質問されたことがあります。

「うちの隣りに住んでいるじいさんは、いつも昼から大酒飲んで、タバコもスパスパ吸って、家でゴロゴロしています。腹もでっぷり出ていますが、とても元気です。しかももう90歳を有に越えて長生きです。できるなら私もあのじいさんのような人生を送りたいと思うのですが、どうでしょう?」

周りの参加者は面白そうに笑っていました。でも、私は特に何の矛盾も感じませんでした。

「そのおじいさんとあなたを重ね合わせても無駄だと思います。まず第一に、彼は激動の90年間に戦争も含めて幾多の自然淘汰の波をかいくぐりながら生き抜いてきたわけですから、それ自体が選びぬかれた人間です。彼の体質と運命がそうさせたわけですから、あなたが彼の真似をしても意味がありません。しかも、彼の世代はつい最近まで大したものも食べられず肉体を使うしかない人生を送ってきたわけで、動脈硬化の原因になる酸化ストレスに曝されてきた量が全く違います。彼の生きてきた時代とあなたの生きている時代が違っている以上、同じことをしても同じ結果にはならないでしょうね。」

まあ、わかりきった陳腐な回答ではありましたが、答えながら、現代社会を生きることの大変さを痛感したことを覚えています。現在、日本人の中で心身共に一番元気があるのは90歳代の人たちだと思います。社会的には超過酷な時代を生き抜いてきた彼らは、実は人類学的には一番理想的な時代を生きてきたのではないかと思います。こんな人たちに、コレステロール値が高いからとかちょっと血圧が高いからとかいう理由で安易に内服薬を処方したり食事療法を強要したりすると、絶対に体調を壊す危険性があるので要注意です。

| | コメント (0)

産経新聞社

昨日、私宛に産経新聞社の封筒に入った郵便物が届きました。以前、メタボリックシンドローム撲滅委員会が行った「特定健診・特定保健指導」に関するアンケートにお答えしたことがありましたが、厳選な抽選の結果(ホントかいな?)私が当選したそうで、5000円の図書カードと一冊の文庫本が送られてきたのです。

本の題名は『専門医がすすめる「特定健診・メタボ」攻略法』(和田高士先生著)。これから始まる特定健診・特定保健指導に対する一般の方向けのハウツー本です。http://www.ascii.co.jp/books/books/detail/978-4-7561-5054-7.shtml

この時期、厚生労働省や各自治体、国保連合会や共済組合などの各組織、あるいは多くの健診機関から、「4月から始まる特定健診・特定保健指導とは何ぞや?」という内容の文書が溢れるほど出てきています。もちろんうちの施設でも作っています。ただ、うんざりするほど似たような面白くない文章が並び、読んでいてもすぐに頭の中は混乱してしまい、明らかな拒絶反応を起こすこと必至の状態です。それでなくてもまだ混沌としている中での見切り発車なのに、する側もされる側も、始まる前から憂鬱になってしまいそうです。

そんな中、この本は何だかちょっと違うみたい。陳腐な題名ですし、書店の店頭に並んでいてもきっと手に取らないだろう地味な体裁で、今回のように勝手に送られて来てなかったら絶対読んでなかったでしょう。でも、この東京慈恵会医科大学新橋健診センターの和田先生の文章は、学者さんのものとは思えない分かりやすさで、簡単に入り込んでいける印象です。こういう先生はきっとお話も上手いのでしょう。残念ながら、手に入れた直後にうちの某保健師さんに持って行かれましたので細かく読めるのは来週になりそうですが、どうせ読むなら、この本、断然お薦めです。

| | コメント (0)

クレーマー

こんなことを大っぴらに書いていいのかわかりませんが、医療現場の裏側で「要注意人物」のレッテルを貼られている人たちがいます。健診の受診者や患者さん、あるいはその家族の中に存在する彼らは、諸般の申し送りの場で必ず申し送られます。素行が危険だとか動きがおぼつかないとかではありません。「細かいことを質問する、些細なことで文句をいう、結果説明で一つ一つに神経質である。」などの理由です。

彼らを「クレーマー」という人がいますが私は全く賛成できません。「クレーマー」というのは、理不尽な要求や難癖をつけてしつこく引き下がらない連中のことで、最近は「モンスターペイシエント」とか「モンスターペアレント」とか称される一切の常識が通用しない超クレーマーが問題になっています。暴力団員の難癖も医療現場で問題になっています。そんな連中と違って、彼らの云っていることは、ほとんどがとても理にかなっています。

私はなぜかそういう「要注意人物」の方々に対応することが多い(意図的に回されているのかもしれません)のですが、ほとんどの場合なぜ問題児扱いされているかよくわかりません。一般的には人一倍不安が強い人に多いように思いますが、彼らが不安に思っていることは至極当然なことばかりだし、不満の原因と対処をひとつずつ具体的に説明できれば納得してもらえます。もし解決できない場合は素直にできないことを話しています。彼らを苦手な人は、むしろ妙な先入観が入りすぎて意味なく緊張してないかとか、「そんなことまで話さなきゃいけないの?」「それくらい常識だろう!」など面倒臭さを感じながら相手をしてないかとか、ちょっと自分の姿も客観的に見つめてみてはいかがでしょうか。意外に自分のその時の心を見る鏡だったりします。

私は彼らの心中を割とよく理解できる方なので、きっと彼らと同類なんだと思います。つまり、私が患者(受診者)だったらそれはそれは扱いにくい、すぐに超「要注意人物」のレッテルを貼られること間違いなしだ、ということでしょう。相手をしてくれる方はご愁傷様です。

| | コメント (0)

動脈硬化は怖いですか?後編

ところが一方で、「動脈硬化」という得体の知れない怪物に対して無意味に怖がっている人も少なくありません。

「レントゲンで大動脈にちょっと石灰化(動脈硬化)が見られます。」「眼底検査で軽い動脈硬化所見が認められます。12ヵ月後に再検査を受けてください。」などと健診報告書に書かれていたと云って、異常に深刻な顔をして「動脈硬化ドックを受けたい」とか、「動脈硬化は大丈夫でしょうか」とか質問する受診者が、男女を問わず増えてきた気がします。

「動脈硬化」という言葉が一人歩きしすぎて、実はあまり理解されていないのではないでしょうか。一般にいうところの「動脈硬化」には大別して2種類あります。老化としての動脈硬化と病気としての動脈硬化です。動脈は年齢とともに当然老化してきます。全体的に大きく厚ぼったくなってきます。こういう老化としての動脈硬化は、変性コレステロールが病的に動脈の壁を通過して内膜下に入り込んでいつでも壊れそうになる「粥状(じゅくじょう)硬化(アテローム変性)」とは全く別ものです。一定の年齢になると何らかの動脈硬化は当然出てきますので、必ずしも「動脈硬化=病気」とは限りません。無用な心配ばかりしていないかどうかを確認してみてください。

ただ、病的な動脈硬化が軽くあるとしても、することは決まっています。「無駄に動く」「無駄に食わない」「ストレスを溜めない」「タバコを吸わない」。心配な方は、ちょうど良い機会ですから、今こそそんな理想的な生活を始める動機付け(言い訳)にしてみてください。

| | コメント (8)

動脈硬化は怖いですか?前編

「生活習慣病」が問題なのは、「がん」や「動脈硬化」になるからです。でも、世間の皆さんの大部分は、「がん」の方が「動脈硬化」より怖いと思いこんでいませんか?

「そんなもの食べてたら心筋梗塞になるよ」と忠告しても「うるさい!好きなもの食べて心筋梗塞になるなら本望だ!」とうそぶいていたオヤジさんが、その食材に微量の発がん物質が見つかったというTV報道をみただけで、ピタッと食べるのをやめた、などというマンガのような話も、納得できたりしていませんか?

私は基本的に「がん」にあまり興味がありません。ずっと専門にしてきた心臓や血管に「がん」がないからと云うこともありますが、「動脈硬化」の方がはるかに厄介だと思ってしまいます。もちろん生活習慣病ですからどちらも日頃の生活習慣の是正が基本ですが、「がん」は、きちんと健診を受けて早期発見・早期治療に気を付ければ、そして、うちの病院のような優秀な先生方に治療をお願いしておけば、機能低下を来すこともなく、無事に生還できる病気ですし、完治が可能な病気です。それでも手遅れになるのであればそれは天命ですので受け入れるしかないと思います。

それに対して「動脈硬化」はどうでしょう?高血圧にしろ糖代謝異常にしろ、早期発見でもやや遅きに失した感があり、まさしく一次予防を必要とします。しかも、早期発見できたとして、速やかに名医にかかったとしても医者は何も治してくれません。完治する病気ではありませんので、発見したときが一生の自己管理の始まりです。ずっとつき合っていく病気ですし、自分で頑張らない限り他人(医者を含めて)はほとんど無力です。

最近、メタボ騒動のおかげでやっと「動脈硬化」の市民権が上がってきたような気がしています。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

餅は餅屋

十年くらい前、出先からの帰りに急に腹痛を催し、なかなか良くならないため病院に帰り着くなり救急外来を受診したことがあります。救急担当医師の簡単な診察の後、消化器内科の当日担当医師のU先生が呼び出されました。

彼の指が私のお腹に触れた瞬間、私はとても驚きました。そのあまりにソフトでデリケートな感触。指と掌でお腹を包み込むように、今までに経験したことのないようなとても優しい触診をしてくれたのです。それは日頃自分が患者さんにしていた無骨で乱暴なそれとは全く別物でした。しっかりと押さえないと奥深いところのしこりに気づかないかもしれないと思っていましたし、研修医時代からずっと触診とはこんなもんだと思いこんでいましたので。そういえば私の触診はすぐお腹に力を入れられてしまいます。私よりもはるかに若い内科医の、小さなリンパ節のひとつひとつまで探しているんじゃないかと思えるようなあの繊細な手さばきを経験してしまうと、今までの自分のやってきた診察が恥ずかしくなりました。

その日は、虫垂炎かもしれない、と外科部長まで救急外来に来てくれましたが、結局は症状が改善してきたので一旦帰りました。2週間後に尿管結石が排出されたことを彼には伝えないままです。

| | コメント (0)

本当は怖い「翌年正常」

健診を受けた結果が返ってきました。「重篤な病気の危険性があるので、早く精密検査を受けてください」という書類と一緒に紹介状が入っていました。「精密検査にはちゃんと行ったと?」という家族の問いに、あなたは、「なあん、どぎゃんもなかけん、行かんちゃ良かろ」と放ったらかしました。1年後、同じ健診を受けたら、今回はその項目に異常はありませんでした。「ほうら。どうもなかったろ!」とほくそ笑むあなた。。。本当は怖い「翌年正常」!

例えば、心電図検査で「陰性T波」という所見があって精密検査の指示が出ます。これは、心筋に必要な酸素の量に対して供給される量が足りない時に起きやすい所見です。この所見から想定されるのは大きく2つ、非貫壁性心筋梗塞/重症冠虚血(虚血性心疾患)か心筋肥大です。前者は突然死を起こすこともあるような重篤な状態で、必ずしも症状を伴うとは限りません。後者は高血圧や肥満、スポーツが原因になる場合もあれば、心筋症という特殊な病気の場合もありますが、徐々に進行して将来心不全の原因になったりします。

さて、この心電図波形が翌年に全く正常になったとしたら、それはどういうことでしょうか?実は、正常に戻った方が危険をはらんでいるのです。心筋肥大は徐々に進みますが一旦出てきたT波が消えることはまずありません。一方、虚血性心疾患は重症発作を起こした時には変化しますが徐々に元に戻ります。ですから、昨年の健診の頃に重症発作を起こしてたまたまた心電図に引っかかった可能性があるのです。たまたま回復しましたが、再発作を起こす危険性が高く、まさしく突然死をいつ起こすかわかりません。

本当に怖いんです。

| | コメント (0)

腹八分目も偏食

6~7年前、職場が現在の建物に移転する前までは、受診者の方々と昼食を一緒に摂りながらお話をする会がありました。出された昼食を食べるのに30分間くらいの時間を割り当てられていました。バキューム食いの私には責め苦でしたが、せっかくの機会でしたので、ゆっくり噛むことと八分目の食べ方をする練習をしてみました。が、いつも完敗でした。とりあえずどれも少しずつ残してみるんですけど、自分の前から持っていってもらわない限りは、残った時間で少しずつつまみ食いしてしまい、結局気付いたら八分目ではなくなっています。

「腹八分目にしましょう」と云われて、二分目を残すのは思いの外大変なことです。私のように「食事は一粒たりとも残すな!」という教育を受けてきた日本人は多いはずです。基本的に出されたものを残すなんてことは無理なんです。何とか頑張って残したとして、残った方に自分の好きなものが入っているとは思えません。嫌いなものばかり残して八分目になるなら、それは単なる偏食です。そんな思いまでして二分目を残すことに何か意味はあるんでしょうか?せっかく作った食事を残すなんてあまりにバカげています。

だから、初めから八分目の量しか作らないこと、八分目の量しか買ってこないこと、これもまた、わかっているけどなかなかできないことですが、どうか一度は真面目にトライしてみてください。

「残す努力よりも作らない勇気!」・・・私の講義を聞いてくれた皆さんは、そこんところきちんと理解だけはしてくれています。ま、それでもいまだに完敗することの多い私でもありますが。

| | コメント (0)

健康食は偏食

一時期よりやや下火になったとはいえ、まだまだ巷には健康情報が溢れています。メタボと特定健診はそんなブームの再燃に拍車をかけました。各種サプリメント、その他の健康食品、特保食品だけでなく、黒酢やゴーヤ茶、ごま、にんにくなど、数え上げるとキリがありません。あるいは、たとえばβカロチンやポリフェノール、ドコサヘキサエン酸(DHA)、エイコサペンタエン酸(EPA)にどんな健康効果がありどんな食材に多く含まれているかなども、一般の人の方がかえって詳しかったりします。私も少なからずサプリメントを飲むようになり、他の医療関係者より少しはこういうものの意義や注意点には詳しい方だと自負していますが、なかなか完全には理解し尽くせないのが実情です。

ただ、はっきりしていることがあります。EPAが動脈硬化防止に良いからといって毎日青魚だけを食うことはできません。ポリフェノールに抗酸化作用があるからといって毎日芋ばかり食っているわけにも、イソフラボンががんに効くといっても毎食豆だけを食っておくわけにはいきません。それがたとえ身体に良いものであっても、それだけを大量に取ればただの偏食ですし、あれもこれも「身体に良いもの」ばかりを集めまわっても摂取過剰になるばかりで(どこかのプロ野球チームのように)必ずしも健康になるとは限りません。あるいは、胃がんには有効だけど高血圧になりやすい、とか、お互いが効果をうち消しあって何の効果もなくなったなどということが起きる可能性もあります。

過ぎたるは及ばざるがごとし。せっかくの知識を無駄にせず、楽しい食事の心強い付き添い程度に考えて使ってあげた方が、ずっと効果が高くなるのではないかと思います。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

以心伝心

「行間を読む」とか「一を聞いて十を知る」とかいう、日本の武士道に通じるこのような考え方が日本では昔から美徳とされてきました。直接云うと角が立つ。野暮なことをせず、ちょっとほのめかせば相手はちゃんとわかってくれる(はず)。これだけ伝えておけばその先は云わなくてもわかっている(はず)。

でも、この「一を聞いて十を知る」は、下手をすればただの独りよがりの思いこみです。先日宴の席である部長と話していました。私がある意見を云い始めた途端に、「先生の思いはちゃんとわかっていますよ。でもね・・・」急に話を取り上げて彼は持論を展開し始めました。さすがの私もこの時にはプチンと切れて席を立ってしまいました。私の少ない経験では、他人の話を最後まで聞かないで「もう解った」と取り上げてしまう人の多くは思いこみタイプで、油断していると全く違う意見として理解されてしまう危険がある人たちです。

以前、期限付きで出向した際、相手の病院がなかなか後任医師を探してくれないので、私の上司に相談したことがありました。彼は「無骨なことを云って気分を害してもいかん。相手はおとななんだから大丈夫だよ」と云いましたが、相手の病院長は「催促がないからもうしばらく甘んじておいても大丈夫なんだと思った」と後で語ってくれました。

現実はきっといつもそんなもんです。くどくてもいいのでとにかく自分の思っていることはきちんと最後まで語らないと、わかってはもらえないと思った方が無難だと思います。それが無骨でも下品でも、オブラートで包まれた商品が全く違うところに送られるよりは良い。その方がずっと以心伝心の関係が生れると思います。

「皆は語らない。語らなくてもわかるだろう」という生き方だけはできるだけ避けていきたいと思っています。こうやってまたまた煙たい存在になっていくのかもしれませんが。。。

| | コメント (0)

その「常識」は非常識?

職場の広報誌コラムを最初に引き受けたときの文章です(2005年1月号)。長いので少しだけ手を入れて削りました。

*************************************************

私が冷奴にしょうゆをかけなくなって10年以上になります。きっかけはある病院に単身赴任した時でした。私はもめん豆腐が大好きです。子供の頃、豆腐屋の自転車がくるとボールを持って表に走って出るのが私の仕事でした。「おまえは豆腐だけで大きくなった様なもんだ」と父がよく話していました。今でも居酒屋に行ったらまずは「とりあえず冷奴!」。

赴任した日、そんな豆腐マニアの私は、仕事が終わるのももどかしく急いで豆腐を買いに行きました。一丁そのまま大きな皿に移してホクホクしながら缶ビール片手に、さあ食べよう!と思ったとき、大事なことに気付きました。しょうゆがない。短期の単身赴任だから持ってこなかったのです。買いに行くのは面倒だからそのまま食べちゃえ。何とかなるでしょと食ってみたら・・・これが、とってもおいしい!豆腐は「味がないモノ」ではなかったのか。豆腐がこんなに甘くて歯ごたえがあって食べた後まで大豆の濃厚なうま味を口中に広げるモノだなんて。なんでわざわざしょうゆなんかかけてこんなおいしい味を台無しにしていたのか。それはとてもショッキングな出来事でした。

この出来事は、私の物事に対する考え方を大きく変えました。こうあるべき、とかこうあって当然、とか、ただ思いこんでいるだけのことが他にもたくさんあるのではないか?それは本当に正解なのか?健康に対する情報が氾濫する中で、信じていた常識は簡単にくつがえされます。それでも最初に植え付けられた常識を無に戻すのは、これが意外に大変なのです。「健康のためには動物性のバターより植物性のマーガリン」と云われていたかと思えば、「マーガリンのトランス脂肪酸はバターより危険」となる。戦前戦後の日本人の死因は感染症と脳卒中(脳出血)が主体でした。いずれも栄養不足が原因だとされ、親は自分は食べなくても子供にだけは良いモノを、と考えました。ところが現在、死因の主体はがん・虚血性心臓病・脳卒中(脳梗塞)に移り、子供達は若くして生活習慣病に冒されています。欧米化された高脂肪食が主犯です。肥満児化してしまった我が子を目の当たりにしても「子供には高栄養食を」という呪縛から逃れられないでいます。

私は、豆腐にしょうゆをかけるのがナンセンスと云いたいわけではありません。適量のしょうゆや鰹節は素材のおいしさを引き立ててくれるでしょう。生姜は消化を良くしてくれます。ただ、試したこともないのに「豆腐には味がない」「豆腐にはしょうゆ」と決め込んでいた理由は、家族の皆がしょうゆをかけていた姿にあります。そうするのが当たり前という固定観念を子供にうえつけないで、ちょっと自分で考えさせてあげてほしいと思います。「こうしなければならない」とか、「こうすべき」とか、お子さんに押しつけていませんか?自分が子供のころに親から教わった常識は、実は全くの非常識かもしれません。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

死の四重奏

あるとき、うちの職場の当時の営業部長が浮かない顔をして帰ってきました。あるタクシー会社の社員に、労災保険二次健診等給付http://www.rousai-ric.or.jp/worker/02/09_02.html該当者が多かったので、直接営業所に書類を持っていったのですが、会社の衛生管理者から「『死の四重奏』という言葉は何とかならないか?」と強い口調で抗議されたと云うのです。医療関係者は『死』と云う言葉を簡単に使うが、一般の人間は『死』と云われるともの凄くショックを受けるものだ。もっと柔らかい言葉を使うべきじゃないか?と。それを聞いた彼は「たしかにそれはそうだな」と納得して帰ってきたそうです。そしてその旨を伝えられたうちの職場の担当者から、「どうしたらいいだろうか」という相談を受けました。

「じゃあ、『死の四重奏』という字を5、6倍くらいに拡大してさらに赤字の太文字に書き換えて送り返せ!って云っておいてください」・・・私は、怒りに声を震わせながらそう答えました。

『死の四重奏』とは、高血圧・高脂血・高血糖・肥満のすべてが揃っていることを云い、それぞれは軽くても4つが揃うと心筋梗塞の発症率が30倍以上に跳ね上がる状態です。これに当てはまる人に早く生活改善をさせるために労災保険がこの制度を作りました。簡単に云えば、今日の運転中に突然心筋梗塞を起こすかもしれない、という意味です。だから、『死』という言葉になんら誇張はありません。特に運転を仕事にしている人たちがこれに当てはまるのは言語道断だと言い切れます。自分が倒れるのは本人の勝手ですが、運転中に巻き添えを食う人が必ずいるわけで、それはきわめて迷惑な話です。

そんなことを知らなかった衛生管理者はやむを得ないとしても、それに納得して帰ってきた営業部長には喝っ!

| | コメント (0)

タクシー運転手の憂鬱

タクシーやトラックの運転手さんの中に、最近特に大きなお腹の人が増えてきた気がします。あるいは電車やバスの運転手さんも然り(正式な統計は知りませんので単なる個人的な印象だと思ってください)です。

体型の問題だけでなく、運転を生業(なりわい)にしている方々の身体が本当に蝕まれていると思います。一日中座りっぱなしなだけでなく、歩くのはトイレと食事の時くらい、息抜きにタバコを吸い、重労働の割に収入が目減りの時勢の中で食事は自ずとコンビニ弁当や安い・早い・高カロリーの食品となり、毎日同じようなものばかりで時刻は不規則。夜間・深夜業務もあり、不景気でオフが増えたとはいえその分だけ過重労働であり、さらに運転で常に神経を使う毎日を過ごしています。現在社会の抱えるメタボ環境の全てを抱え込んでいます。ある意味、ネットカフェ難民よりも非人間的な生活を強いられている人が多いとも云えます。

こんな方々に、「もっと運動をしましょう」、「食事は腹八分目に」、「睡眠を十分取りましょう」などという教科書的な保健指導をしても、無意味だと思います。ご本人たちは健康を蝕んでいることくらいはわかっていますし、何とかしたいとも思っているはずです。でも、現実問題として何ができるのかと考えたとき、巷にある健康情報はほとんど用をなしません。これだけ世間には健康の専門家がたくさんいるわけですから、運動の専門家も栄養の専門家もみんなで知恵を出し合って、「運転手のための生活療法レシピ」=ドラコン@ナビ: Driver's conditioning Navigation recipeなるものを出してもらえないものでしょうか。ナースや守衛さんのような夜間深夜業務の方のためのレシピもあってくれたらいいなと思います。

うちのスタッフに頼んだこともありますが、梨の礫・・・逃げられちゃいました。

| | コメント (0)

スポーツドクター

昨日、「健康スポーツ医学再研修会」というのに出席してきました。「競技現場で役立つスポーツドクターを目指して」というテーマのシンポジウムを聞きながら、遠い昔を思い起こしていました。

ある山中の病院に出向していた頃のことです。中学1年のA君は、ホルター心電図検査で心室性期外収縮が頻発し連発も数回認められました。トレッドミル検査を行っても期外収縮は減ることはなく、かといってさほどひどくなるわけでもありませんでした。結果として、学校体育や部活動の運動制限を指示せざるをえません。彼は泣きそうな顔をしました。小学校時代の持久走大会で優勝して以来、走ることだけが生活の中での最大の楽しみで、毎日何キロも走っていたのです。彼は1年後にもまたやってきました。相変わらずの所見でした。「去年はもっと明るい子だったのに」と思い出せるくらいの無表情な顔でふて腐れた態度で診察室に入ってきました。「去年、走ることを取り上げてから、ずっとこんななんです。今年はもしかしたら良くなっているかと期待したんですが・・・」とお母さんも沈んだ声で云いました。診察室で、彼は一言もしゃべりませんでした。

この子が大好きな長距離走をずっと続けたとしても、何か起こることはまずなかったでしょう。でも、公の場で何かをさせる以上、責任を誰かが取らないといけません。学校は医者にその答えを求めます。結局在学中は何もさせずに大事を取るのが無難です。これで、学校も医者も安泰。でも、そのためにひとりの若者の人生を変えてしまいます。その後をずっと見届けていく覚悟もないのに、彼の人生を変える権利が本当に私にあったのでしょうか?

| | コメント (0)

猫背と下腹

昨年、元上司の還暦祝いの宴に参加しました。赤いちゃんちゃんこ姿のシルエットをみると猫背の曲がった背中が殊更目立って、本当に歳をとったなあとちょっとショックでした。彼は若いときからちょっと猫背気味でした。いつもちょっとうつむき加減でセカセカ急いで歩いていた印象が私にはあります。

あるパーティで、ある保健師さんの下腹が急に出てきたのに気づいて驚きました。ある年齢になれば女性の方には間々ある変化なのですが、彼女もまたいつも前屈み気味に猫背で早歩きしている印象があります。

猫背の人はいつも下腹の筋肉が緩んでいます。逆に、下腹の力が緩むから猫背になるのかもしれません。猫背になるとバランスを取るためにどうしても下腹を前に突き出す格好になります。ちょうど類人猿のような格好です。歳をとってくると腹筋が弱ってくるためにどうしてもそうなりがちですが、最近若い人たちにもそんな格好の人が増えてきているのがとても気になります。基本的に下腹の筋肉に力を入れない生活をしているからだと思います。家ではソファにごろ寝するか椅子に浅く腰掛けているので、ほとんど腹筋を使わなくても楽に生活できます。テーブルがあればいつも肘をついています。そんな生活を続けていると腹筋が退化して腸がだらんと下がってしまって下腹ぽっこりになりますし、そのうちその周りに脂肪が溜まってしまって一層脹らむことになります。

大変でしょうけれど、若いうちからいつも下腹に力を入れて極力背筋を伸ばす生活を心がけてほしいものです。それを習慣付けるだけで、腹がすっきり格好良くなるとともに確実にダイエットできるはずです。運動不足が気になっている方は是非やってみてください。かく云う私も基本が猫背ですので、最近は意識して背筋を伸ばして下腹を引っ込めるようにして歩いています。疲れますが、効果はあります♪

| | コメント (0) | トラックバック (0)

« 2008年2月 | トップページ | 2008年4月 »