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自動巻きと体内時計

職場の広報誌に寄稿しているコラムの転載(一部訂正)です。今回は2006年10月号です。

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自動巻きと体内時計

20年ぶりに腕時計を買い換えました。初めて腕時計を買ってもらったのはもう40年近く前のことです。バス通学のために買ってもらったその腕時計は当時としては画期的な自動巻きでした。腕に巻いておけば竜頭を定期的に巻かなくてよいのです。次に買った時計は結婚の頃で、電池式でした。ほったらかしても止まらないなんて凄いなあと思いました。最近は、電池交換が不要なソーラー電池だの標準時刻に自動調節する電波ウオッチだのと、さらに進んだ機能を誇示しています。でも、私が先日買った時計は、再び自動巻きです。昔と同じように日付もついています。当時あれだけ感動した自動巻き腕時計ですが、これが意外に不便です。微妙に狂うので時々時刻あわせをします。そして何よりも、2ヶ月に1回は手動で日付のリセットをしなければなりません。今時こんなことまで面倒みなきゃならないなんて鬱陶しい、と思いました。

体内時計というものがあります。体内時計のリズムは1日25時間だそうです。それを地球周期の24時間リズムに合わせるために、毎朝リセットボタンを押す作業が必要です。それを行う物質を「BMAL1(ビーマルワン)」といいます。夜に急増して脂肪細胞に脂肪をため込ませる物質でもあり、「夜中にものを食うと太る原因」として近年ちょっとしたブームになりました。目が朝日の光刺激を受けるとBMAL1の量がグンと減って、それがリセットボタンを押す合図になります。さらにおもしろいのは、その光刺激が松果体というところにあるメラトニンという物質を分泌させます。別名「時計ホルモン」といわれるこの物質は約14時間後に睡眠を促すスイッチを入れるそうです。人間はもともと体内にそんな精巧な時計を持っています。ですが、それがきちんと作動するための重要なポイントは「朝日を浴びること」です。それはまぎれもなく、人間の身体が太陽とともに朝起きて夜寝るように太古の昔から決められてきた生物であることを示しています。

ところが現代人はそうはいきません。暗黒の闇であるはずの夜中に起き出て煌々と輝く世界でバリバリ活動しています。せっかく精巧に仕組んでおいた体内時計は、リセットスイッチが入らないので徐々に狂い始めます。身体の隅々まで細かに調節する自律神経も体内時計に合わせて1日を活動していますから、その狂いが昨今の自律神経失調症状を引き起こし、代謝にまで影響を与えています。体内時計は、まさしく自動巻き時計と同じです。自らあるべきリズムで動かしている限り存在を意識する必要もなくきちんと時を刻みますが、動かさないと徐々に狂ってきます。本来全自動で行われているはずのリセット作業も、時々手動で修復させる必要があります。ことは人類の存続に関するきわめて重大な話ですが、それが「朝日を浴びる」という行為で修正できるのなら、ちょっと布団の暖かみが恋しくなってくる秋ですが、早起きして朝日に向かって伸びなどしてみる価値はありそうです。いつも正確だと思っていたあなたの「腹時計」が少しずつ狂ってきていたことにもきっと気付くでしょう。

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