スポーツドクター
昨日、「健康スポーツ医学再研修会」というのに出席してきました。「競技現場で役立つスポーツドクターを目指して」というテーマのシンポジウムを聞きながら、遠い昔を思い起こしていました。
ある山中の病院に出向していた頃のことです。中学1年のA君は、ホルター心電図検査で心室性期外収縮が頻発し連発も数回認められました。トレッドミル検査を行っても期外収縮は減ることはなく、かといってさほどひどくなるわけでもありませんでした。結果として、学校体育や部活動の運動制限を指示せざるをえません。彼は泣きそうな顔をしました。小学校時代の持久走大会で優勝して以来、走ることだけが生活の中での最大の楽しみで、毎日何キロも走っていたのです。彼は1年後にもまたやってきました。相変わらずの所見でした。「去年はもっと明るい子だったのに」と思い出せるくらいの無表情な顔でふて腐れた態度で診察室に入ってきました。「去年、走ることを取り上げてから、ずっとこんななんです。今年はもしかしたら良くなっているかと期待したんですが・・・」とお母さんも沈んだ声で云いました。診察室で、彼は一言もしゃべりませんでした。
この子が大好きな長距離走をずっと続けたとしても、何か起こることはまずなかったでしょう。でも、公の場で何かをさせる以上、責任を誰かが取らないといけません。学校は医者にその答えを求めます。結局在学中は何もさせずに大事を取るのが無難です。これで、学校も医者も安泰。でも、そのためにひとりの若者の人生を変えてしまいます。その後をずっと見届けていく覚悟もないのに、彼の人生を変える権利が本当に私にあったのでしょうか?
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