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その「常識」は非常識?

職場の広報誌コラムを最初に引き受けたときの文章です(2005年1月号)。長いので少しだけ手を入れて削りました。

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私が冷奴にしょうゆをかけなくなって10年以上になります。きっかけはある病院に単身赴任した時でした。私はもめん豆腐が大好きです。子供の頃、豆腐屋の自転車がくるとボールを持って表に走って出るのが私の仕事でした。「おまえは豆腐だけで大きくなった様なもんだ」と父がよく話していました。今でも居酒屋に行ったらまずは「とりあえず冷奴!」。

赴任した日、そんな豆腐マニアの私は、仕事が終わるのももどかしく急いで豆腐を買いに行きました。一丁そのまま大きな皿に移してホクホクしながら缶ビール片手に、さあ食べよう!と思ったとき、大事なことに気付きました。しょうゆがない。短期の単身赴任だから持ってこなかったのです。買いに行くのは面倒だからそのまま食べちゃえ。何とかなるでしょと食ってみたら・・・これが、とってもおいしい!豆腐は「味がないモノ」ではなかったのか。豆腐がこんなに甘くて歯ごたえがあって食べた後まで大豆の濃厚なうま味を口中に広げるモノだなんて。なんでわざわざしょうゆなんかかけてこんなおいしい味を台無しにしていたのか。それはとてもショッキングな出来事でした。

この出来事は、私の物事に対する考え方を大きく変えました。こうあるべき、とかこうあって当然、とか、ただ思いこんでいるだけのことが他にもたくさんあるのではないか?それは本当に正解なのか?健康に対する情報が氾濫する中で、信じていた常識は簡単にくつがえされます。それでも最初に植え付けられた常識を無に戻すのは、これが意外に大変なのです。「健康のためには動物性のバターより植物性のマーガリン」と云われていたかと思えば、「マーガリンのトランス脂肪酸はバターより危険」となる。戦前戦後の日本人の死因は感染症と脳卒中(脳出血)が主体でした。いずれも栄養不足が原因だとされ、親は自分は食べなくても子供にだけは良いモノを、と考えました。ところが現在、死因の主体はがん・虚血性心臓病・脳卒中(脳梗塞)に移り、子供達は若くして生活習慣病に冒されています。欧米化された高脂肪食が主犯です。肥満児化してしまった我が子を目の当たりにしても「子供には高栄養食を」という呪縛から逃れられないでいます。

私は、豆腐にしょうゆをかけるのがナンセンスと云いたいわけではありません。適量のしょうゆや鰹節は素材のおいしさを引き立ててくれるでしょう。生姜は消化を良くしてくれます。ただ、試したこともないのに「豆腐には味がない」「豆腐にはしょうゆ」と決め込んでいた理由は、家族の皆がしょうゆをかけていた姿にあります。そうするのが当たり前という固定観念を子供にうえつけないで、ちょっと自分で考えさせてあげてほしいと思います。「こうしなければならない」とか、「こうすべき」とか、お子さんに押しつけていませんか?自分が子供のころに親から教わった常識は、実は全くの非常識かもしれません。

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