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母がくれたもの

「手遅れの胃がんになる人は検診を受けない人だ。だから自業自得だ!」

学生実習のときに、外科か消化器内科の先生が堂々とそう云い切ったのを、悔しい思いで聞きました。母は、仕事をしていたときも退職してからも検診を欠かしませんでした。「何だか胃の調子が悪い」と云って、検診で胃透視を受けた半年以内にまた市中の病院で検査を受けましたが何も見つけてもらえませんでした。その半年後、娘が出産のために里帰りしてたまたま受診した某公立病院で、勧められてもう一度検査を受けた時にはすでに肝に転移していました。「この市の医療水準はこんなに低いのか!」県外から就任していた当時の主治医は、悔しがりながらわたしに1枚のレントゲン写真をくれました。胃の噴門部にえぐれたがんがクッキリと写っている写真でした。「これから医者になる君は、この写真の意味するものをいつも胸に抱いて、立派な医者になりなさい。」

付き添いでベッドサイドに寝ていたら急に持続点滴のアラームが鳴りました。夜中でした。ナースコールを押しましたがなかなか来てくれません。もう一度鳴らしました。尖りまくっていた当時のわたしの怒りが限界線を越えそうになりました。「大丈夫ですよ。問題ありませんから。」やっと来た夜勤のナースのそのことばに切れました。「大丈夫だろうがなんだろうが、夜中の暗闇の中でピーピーとアラームが鳴り続ける不安感をおまえは理解できないのか!それでもプロか!」・・・母の前で爆発させてしまった自分の身体の震えをしばらく押さえることができませんでした。「そんなに怒りなさんな。看護婦さんも忙しいんよ。問題なかったんやけん、それでいいわ。」母はこともなげに静かに云いました。しかも、翌日は病室に来たナースにわたしのことを一生懸命謝っていたことを後で聞きました。本当に凄い人だと思います。

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