やっかいな判定
心電図所見が明らかに異常の人がいました。心筋肥大、特に「肥大型心筋症」という特殊な病気の存在を強く疑う波形です。毎年同様の所見で「要精密検査」と指示を出していますが受けていない様子なので、やむを得ず今年も同じ判定をしました。実は20年くらい前に専門医で精密検査を受けて「問題ない」と云われたから、という理由で指示を無視している様なのです。
心臓の筋肉は肥大する必要があるときだけ肥大します。例えば高血圧や高度肥満など、あるいはトップアスリートの心臓(いわゆる「スポーツ心臓」)もその類です。唯一心筋細胞が理由もなく肥大するのが肥大型心筋症です。肥大型心筋症が問題なのは命に関わる重症不整脈が突然出現することがあるのと将来心不全になっていく可能性があることくらいです。生活にほとんど制限は要りませんが、時々定期的に心臓エコー検査で肥大の進行がないか確認したり運動負荷検査やホルター検査で危険な不整脈が出ないか確認したりします。心電図は、心臓細胞の微細な電気信号を見ているので、心臓エコー(見た目)に異常が出始めるもっと前から変化を始めます。心電図に異常所見がでて精密検査に行っても問題がなく、その数年後から変化が出始めることは珍しくありません。
さて、この受診者さんです。是非、今の心臓の状態を確認するために専門医の元に行ってほしい。でも、ここ5年以上心電図は変化していませんので、彼を一生懸命説得して病院に行ってもらって、高い医療費を払って検査しても、たぶん内服治療の対象ではないでしょうし、生活制限も指示されないでしょう。でも、突然死する危険性がある以上、健診の心電図を「経過観察でよい」とは判定できないのです。
外来で、そんなことまで話しておいてもらえると、こんなに悩まなくて良いのですけれど。
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