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おまえには診てもらいたくない

苦い思い出があります。

「あんな医者のところに戻らせたくない!」出向先の病院で、救急で担ぎ込まれた急性心筋梗塞の患者さんに初期処置をして救急車で熊本に送ったことがあります。順調なリハビリを終えて地元に戻ることになったとき、奥さんがこう云ったのです。どうも、最初に受診したとき、わたしが初対面の自分を頭ごなしに怒ったのだそうで、はらわたが煮えくり返るほどだったけど救急事態だったからじっと我慢したのだそうです。

転院してきたとき、息子さんだけ付いてきました。奥さんも心筋梗塞で大学病院に入院したことがあるが5日間しか入院しなかった。夫は2週間も入院した。あの病院は金儲けしか考えてない病院だから早く出ようと思ってやむを得ずおまえ(わたし)のところに転院するのを承諾したのだ!息子さんは奥さんの言葉を代弁してそう云いました。「きっとわたしが何を話しても信用しないと思うのですが」と前置きしたら、息子さんは「もちろん、何も信用する気はありません」と不機嫌そうに答えました。

「心筋梗塞」という病名でも、陳旧性心筋梗塞と急性心筋梗塞は全く別の病態です。後者は今まさに心臓が腐っている状態です(http://satoritorinita.cocolog-nifty.com/satoritorinita/2008/04/post_c816.html)。陳旧性心筋梗塞で5日間の入院は長すぎです。急性心筋梗塞を2週間で退院できるのはかなり早い経過です。その差を説明しましたが、「きっとあなたは信用していないでしょうから、そのまま大学病院の先生に聞いてみてください。」と伝えました。きっと息子さんは奥さんにそんな内容は伝えなかっただろうなと思います。

わたしをどう思ってもいいのですが、わたしが関わったために、あの家族は間違った知識のままに生きていくことになってしまいました。それが何か申し訳なくてたまりません。なお、当の本人は発病前のいい加減な生活を反省して、その後もいつもニコニコして通院してきてくれました。

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