「家守綺譚」
「家守綺譚(いえもりきたん)」(梨木香歩著)を読みました。先日、運転中に紹介されたのを聴いて、まるで憑かれたように読みたくなりました。推理小説でもサスペンス小説でも純愛小説でもない、こんな不思議な小説を読むのは本当に久しぶりでした。
綿貫征四郎という売れない物書きの主人公が、亡き学友の実家を守るわけですが、とにかく出てくるものが妖怪だらけ。狸や河童だけでなく花や草木や鳥たちといったあらゆる自然界の精霊たちが彼に絡んできます。死んだはずの学友も平然と掛け軸から出てきます。大の大人がカワウソの孫だったりします。それを、主人公も隣りのおばさんや寺の和尚も全く当たり前のことのように悠然と受け入れている。奇妙な物語(=奇譚)ですが、この不思議な空気がとても心地良く、一気に読み上げてしまいました。ちょうど、先週末にテレビで見た「となりのトトロ」と同じです。トトロの世界でも精霊たちは人間と共存し見守ってくれています。トトロでは精霊が見えるのは子どもたちだけですが、でも周りの大人たちはみんなその存在を認めています。
わたしはどこかでこんな人生に憧れています。守る家で悠々自適に生きる生き方にも、自分の周りの自然界にそのまま同化してしまいそうな生き方にも憧れています。というより精霊たちに認められた綿貫征四郎に嫉妬してしまいます。きっと昔の日本はどこでもこんなもんだったのではないかと思います。幼稚園に上がる前、田舎の父の実家にばあちゃんと住んでいた頃、わたしはそんな精霊や妖怪たちに出会っていたような気がします。先日、法事で田舎に行きました。もはや家も道も変わっていましたが、合間に裏の田圃のあぜ道に出てみたら、何かが木陰でわたしを覗いているような気がして、とても懐かしい感覚になったのを覚えています。
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コメント
こんにちは、はじめまして。YO-SHIと言います。読書ブログやっています。
人にすすめられて、私もこの本をちょっと前に読んだところなんです。
100年前の日本(もちろん私は見たことはないですが)は、こんな風に自然や異世界のモノたちが近くに感じられる生活をしていたんだろうなぁ、と思います。
良い本に出会えたなぁ、と思います。
投稿: YO-SHI | 2008年7月25日 (金) 18時52分
YO-SHIさん。コメントありがとうございます。
車の中で聞いた名前だったので、忘れないように「いえもりきたん」「なしきかほ」「わたぬきせいしろう」と必死の思いで何度も何度も復唱し、やっと車を停められる場所を見つけて、急いで携帯にメモしました。
「西の魔女が死んだ」の作者だとも知らず、Amazonで買うときも1500円以上で送料無料になるということに目がくらんで、「ぐるりのこと」「からくりからくさ」「春になったら莓を摘みに」を一緒に買ってしまいました。期待を持って、これから読めます。
100年前でなくても、つい最近まで日本では(ちょっと田舎に行けば。あるいは都会でもちょっと路地裏に行けば)あったことだらけなんだと思います。こっちがそれを感じられる感性を持てているかどうか、という問題だけという気がしませんか?
投稿: ジャイ | 2008年7月25日 (金) 21時16分