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慈しむ。

「からくりからくさ」(梨木香歩)を読みました。日本人間ドック学会のあった徳島は熊本からはとても遠く、450頁弱の小説を読むのに片道6時間のJRの旅は十分でした。

主人公の蓉子という女性を「自分は気付かずに、いろんな命を育んだり慈しんだりしている女性」と評しています。「・・・慈しむとか、大切にするとか、尊ぶとか、そういうことが、観念ではなく、出てくるのよ・・・。それは、りかさんだけじゃないんだ。この家の一人一人に対して、草木に対してさえ、蓉子さんはいつもそうだった。」・・・わたしは常々、人間の(あるいは生きるもの全ての)根底に流れる最も重要なことは、この「慈しむ心」だと思っていましたので、その文言が突然目の中に入ってきて、驚きました。わたしは読むべくしてこの小説を読んだのだと思いました。

サッカー応援の友人に、そんな蓉子さんのような人がいます(男性ですが)。人間の本質は「慈しむ心」だと思っているわたしではありますが、それを身体で表現することがなかなかできません。それを彼は普通にできます。彼は常日頃から、いつもぶつぶつ文句ばかり云っています。でも、たとえば九石ドーム(J1大分トリニータのホームです)で、雨に濡れそうになって戸惑っている身障者を見かけたら走っていって傘を差し出し、車に乗るのを手伝います。たとえば九石ドームで迷子になって泣いている子どもがいたら必ず声をかけて、安心させながらスタッフに渡します。肉親でもないのに、「お世話になったから」という理由だけで縁者の居ない墓参りを続けます。そういうことを「普通のこと」として簡単にやってのける姿を何度も見かけてきました。彼の人生を一言で表現するなら、迷わず「慈しむ」を選びます。「僕は好き嫌いが激しいからね」と云い、頑固オヤジであることは自他共に認めます。でも、その頑固さが「慈しみ」に満ちていることを、周りの人間は皆がわかっています。こんな人間になりたい。間違いなく、わたしの憧れの姿です。

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