医学は科学ではない(後編)
医学部は、文系の人間と理系の人間が混在しています(わたしの学生の頃は文系の方が多い印象でした)。理学部に入る人、特に物理や化学を専攻する人は、やっぱり理系の人間ばかりでしょうね。
わたしは精神科医になりたくて医学部に入りましたが、精神科の教授が「分裂病(統合失調症)は分子レベルで解明されそうだ!」と嬉々として語る姿を見たときに、急激に興味を失ってしまいました。学会で発表をすると、「そのメカニズムを教えてください」「その機序をどう考えていますか?」とよく質問を受けました。わたしはあれが苦手でした。メカニズムが明確でないのは「たまたま」でしかなく、メカニズムこそがサイエンスである、というわけです。再現性のないものは科学とは云わず普遍性のあるものにしか真理はないというのです。わたしは病気の人間を良くしてあげたいと思うけれど、その病気が何で起きるのかがわからないといけないとは必ずしも思わないし、そういうものにあまり興味がない人種だということがわかってきました。
医者(医師国家試験合格者)の中には、同じカリキュラムを経て、同じ教育を受けてきたにもかかわらず、人間が細胞・分子の集まりに見える人と、心や魂の宿ったモノに見える人がいます。前者はサイエンス学者であり後者はヒューマニズムの哲学者なのかもしれません。前者だけの実験室オタクは医者ではありませんが、私のように後者だけの薀蓄野郎ももちろん医者ではなく、医者というのは、その両者をきちんと身につけているものでそのどちらが欠けても一流とはいえないのだと思います。ということは、やはり「医学は科学じゃない」というのが正解で、「科学じゃないからこそ医学は素晴らしいのだ」という気がします。
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