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かがやく

もうひとつだけ「風花病棟」(帚木蓬生・新潮社)から。

「宮田さんが言っとりましたよ。わしは最後によか主治医に会うたと」・・・(中略)・・・大学での一年目の指導医の教えを忠実に守ったに過ぎない。面接で話題がなくなったら、本人が一番輝いていた時期のことを聞く。そうすれば、治療は決して悪い方にはいかない-。~精神科医としてアルコール病棟の医師となり、病棟の主のような患者(宮田さん)とのこころの交流を描いた作品=「かがやく」の一節です。

とかく医者は自分に必要なこと、あるいは自分に興味のあることしか聴こうとしません。時間がないということもあります。精神科の場合は十分な時間をとって患者さんと面接をするのが常ですが、それでも話題を振ろうとするときにはどうしても診療に直接関係ある情報を得ようとするものです。そんな中で、「本人が一番輝いていた時期のことを聞く」というのはとても素晴らしい考え方だと思いました。

わたしが「医者」だったころ、わたしも良く診療と関係ないことを聞いていました(カルテメモ)が、あれは相手が話したことをメモしたにすぎません。病院に来たら病気のことを聞いてほしいのだと意気込んでくる患者さんも多いですが、それでも診療にあまり関係ない釣りの話や孫の話をしているときの方がはるかに良い顔をしていました。わたしは精神科医ではありませんが、あの気の毒そうに(待っている患者さんが多いことを知っているので)そっと話す患者さんのこころからの笑顔を引き出せたことはいいことだったと自負しています。

帚木蓬生の「風花病棟」は、1年に1編だけ小説新潮に掲載されてきた、医師を主人公にした短編小説集です。舞台が九州であるものがほとんどだということも親近感を覚え、一気に読み終えました。

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