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存在

わたしをこの病院に誘ってくれた元ボスは15年近く前に脳腫瘍で亡くなりました(「恩師の遺言」2008.2.18)。

ガンマナイフ>という当時は超先進的な治療を受けて(彼が自分で調べて自分で手続きしてそれをやっている病院に入院しました。現在うちの病院にガンマナイフ治療室があるのは、彼の影響です)、一旦は現場復帰しましたが、残念ながら腫瘍の質(たち)が悪く再発をしてしまいました。手術を受けるべく大学病院に入院した彼は、ある日、わたしたちスタッフを全員呼び寄せました。

「腫瘍の場所が悪く、手術によって麻痺が残るかもしれないと云われた。わたしは、わたしの人生観として、あるいはポリシーとして、カテーテル治療を自らの手で行えないようなカラダになるのであれば自分の医師としての存在意味が見いだせない。生き恥をさらすような姿になってまで生きていたいとは思わないので、手術を受けないことにしようと思う。」

静かに、しかしキッパリと、彼はわたしたちにそう語りました。でも、わたしたちの意見はほぼ一致していましたので、誰からともなくこう訴えました。

「先生は大きな考え違いをしている。先生が『存在している』という事実がいかに重要で大きなことかをわかっていない。何もしなくて座っているだけでも十分なのです。先生がそこに存在しているということがわたしたちの支えなのです。先生の人生観を変えてもらって、ポリシーを曲げてもらって、できる限りの生きる努力をしてほしいのです。」

その場での即答を避けましたが、結局彼は、わたしたちの懇願を聞いてくれました。再びカテーテルを握ることはありませんでしたが、幸い麻痺は残りませんでした。

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