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若造(前)

救急病院の循環器科医だった若いころのあるエピソードを思い出しました。

ある日の未明、初老の男性が胸の痛みを訴えて救急外来に担ぎこまれました。心電図所見から急性心筋梗塞の診断が容易につきましたが、かなり広範囲にやられているようでしたので、できるだけ早く緊急カテーテル検査(心臓の中や心臓を栄養する血管に細い管を入れて検査します)と再潅流治療(詰まった血管をまた通るようにする治療)を行う必要があると判断しました。

集中治療室でカテ室にいつでも出せる準備をさせながら、同行した奥さんを別室に呼んで病状を説明しました。心筋梗塞であること、かなり厳しい病態であること、できるだけ早くに再潅流療法をする必要があることなどを細かく説明し、承諾書をもらおうとしました。ところが、奥さんが「うん」と云いません。表情が明らかに戸惑っています。時間がないので焦りましたが、とにかく承諾書をもらえないと治療はできません。結局、そのまま朝を迎えました。朝のカンファレンスでそのことを報告すると、ボスが口を開きました。

「お疲れさん。さっき、開業医のT先生から直々に電話があったよ。『自分が主治医をしている患者さんの奥さんから朝早くに電話があっていきさつを聞いた。すぐにできる限りの治療をしてもらうように伝えましたのでよろしくお願いします。』だそうだ。なんでも、夫が救急車で病院に運ばれて入院になったのだけれど、若造の医者が出てきて『重症』だの『命に関わる』などと脅した挙句に『今すぐ手術をする』『急死する可能性がある』だのと迫ってきた。こんな若い医者の口車に軽々と乗ったら危ないと思って、先生と相談できるまで誤魔化して待ってもらっている、と云っていたそうだ。」  (つづく)

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