トリガー
先日、企業健診として人間ドックを受けたある男性がおりました。
何年も前から高度の高血圧を指摘されているのにいまだに病院受診をしていません。心機能の指標になる血中BNP(脳性ナトリウムペプチド)の値も、ずっと正常上限の10倍以上の高値を示しています。これは心臓に持病を持っている人ですらかなりの心機能低下を意味しており、簡単に云えば「心不全状態」です。精密検査依頼書が毎年発行されているというのに、彼は頑として病院受診を拒んでいます。さすがに心配した保健師が、せめて医師の結果説明だけでも受けるように説得しましたが、ダメでした。その理由は、『自分を病人扱いするから!』。
・・・「何云ってんだ、おまえ!誰がみても病人だろうが!」と、多くの医療者がそう思っていることでしょう。でも・・・数年前に読んだあるアンケート結果の記事を思い出しました。入院中の患者さんの60%以上が「自分を病人とは思わない」と答えているのです。この方も、症状もなければ日常の生活や仕事を何不自由なく暮らせているのに、そんな『元気な』自分を病人扱いするのはお門違いだ!と思っているのでしょう。そういえば、「高血圧症や脂質異常症(高脂血症)は<病気>ではなく、これが原因で心筋梗塞や脳梗塞になった時に<病気に罹った>と云うのだ」という考え方は、つい20年ほど前までは医者の間でも割と受け入れられていた考えのように思います。
さて、この話を聞いてわたしが最初に思ったのは、<彼をこんな想いにさせた最初のきっかけは何だったのだろう?>ということです。一番最初に彼に病気の状態を説明した医者か保健師かの云い方が、何か間違っていたのではないのだろうか?とてもいい加減でぞんざいだったか、それとも逆にとても高圧的で一方的だったのではないか・・・彼が今抱えている状態は、いつ何が起きてもおかしくない状態なだけに、一番の被害者は彼本人のような気がしてなりません。
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