生活習慣病放置病~健診結果のながめ方
新連載を始めた広報誌の新しい号が発行されました。新年度を迎えて職員健診が始まりましたので、ちょっと厳しく戒める文章にしてみました。
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「『まだ予備群だから治療をするほどじゃない』などと指導しているあなた方の行為は自殺教唆です!」・・・健診医になって1年め、ある医療者向けセミナーに参加した時に講師の先生が言ったことばに一瞬緊張が走りました。「せっかく健診で異常を見つけておきながら、そのまま放置して病気を悪化させて、どうしようもなくなってから私たちの元にやってくる。私たちがどんなに悔しい思いをしているかわかりますか?その状態にさせたのは、あなた方ですよ!」・・・糖尿病の日本の第一人者である彼の声は、とても重く厳しく私の心に響き渡りました。
ここ数年、病気の考え方は大きく変わりました。<予備群>や<未病>を、「まだ大丈夫だけれど、”備えあれば憂いなし”だから注意しておこう」程度に考えていたら、もはや現実はそんな甘いものではないという事実が次々とベールを脱ぎました。食後高血糖、慢性腎臓病(CKD)、メタボリックシンドローム・・・今まで<ちょいワル>くらいに悠長に構えていたこれらの状態が、すでに今すぐ流れを変えないと悪化の勢いを止められなくなる『最終警告だ!』というのです。それはちょうど大きな艦船のカジ取りをするようなものだと思っています。遠くに障害物を発見したら、その時点ですぐに進路変更を企てないと大きな艦船は衝突を回避できません。現代人は、自分が小回りの利く小さなボートに乗っていると錯覚していて、乗っている船がいつの間にか大きな艦船に変わってしまったことに気付いていません。
いかがですか?皆さんは受け取った自分の健診の結果報告書を、きちんと見直していますか?「どうもないから」と、封を開けずに放っている人はいませんか?「紹介状がついてなければ大丈夫」と油断していませんか?同じ検査をしても、病院と健診では見ているものが違います。何か心配なところがあって受診する病院の検査は、それが「異常」ではないかを調べるためにあります。一方、健診では「異常」でなくても徐々に「正常」から外れてきているものがあるとそれは大問題です。気付かないうちに予定航路から外れていこうとしていることを示しているからです。健診の目的は病気の早期発見ではなく、病気にならないよう監視することだと心得ましょう。
カジ取り方向をほんのちょっとずらすだけで、最終的に何百メートルも位置が変わります。カジを持つ手にちょっと力を加える勇気があるかどうかです。軽いうちは何をやっても意外に面白いので、試した者勝ちです。自分でもいろいろ試して楽しんでみている私としては、健診で思いの外厳しい結果を言い渡されたおかげで、せっかく日々の生活をいじってみるチャンスをもらったのに、重い腰をなかなか上げないのが勿体なくてたまりません。
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コメント
カジ取り方向をほんのちょっとずらすだけで、最終的に何百メートルも位置が変わります。
なるほど、そうですよね。転ばぬ先の杖、大切ですね。
投稿: 腎臓病が気になるhime | 2010年7月20日 (火) 09時49分
腎臓病が気になるhimeさん
書き込みをありがとうございました。「転ばぬ先の杖」と云うよりも、<転ぶことを想像する必要のない>人生であってほしいと思っています。
腎臓病の治療(というか予防の段階からずっと)はほとんどすべてが食事。「治療食」と考えるより、<美味しい>食習慣になってしまうのが一番幸せですよね。
投稿: ジャイ | 2010年7月20日 (火) 11時41分