敗北宣言 ~「やめられないから始めない」の真意~Part2
結局は、こっちが掲載されました。内容はまったく同じですが、こっちの方が分かり良いからという理由で採用されたと聞いています。もしかしたらあっちは最後のタバコに関する記載がネックだったのかもしれない、とちょっと思っています。それにしても、脚本家や小説を脚色する方の才能はすばらしいなと今回は痛感しました。やっぱりわたしには向きません。
********
「そろそろ血圧のクスリを飲み始めませんか?」
「でも先生、クスリは飲み始めるとやめられなくなるんでしょ?」
「いまだにそんなことがまことしやかに言われているのですか?」
「はい。私はそう聞いています。」
「高血圧のクスリは早くからきちんと飲み始めると約30~40%の人がやめられると言われています。」
「え、そうなんですか?」
「でも、飲むべき時期に飲まずに、ギリギリまで引っ張って飲み始めたらやめられるわけがありませんし、むしろ大量に飲む羽目になります。早期のまだ弾力性のある血管であれば戻せますが、血管の壁に強い圧力が長期間加わって血管が硬くなってしまったらもう元には戻りません。何よりも『やめられない』ならむしろ早くから飲み始めないと危ないということでしょ?」
「わたしは毎日何万歩も歩いているし、塩分を控えて精進料理しか食べない人生をもう何年も送ってきました。タバコも吸っていません。こんなに頑張っているわたしが、なぜクスリなんか飲まなければならないのでしょうか?先生、何が悪いんですか?」
「体質とはそういうものですよ。」
「クスリじゃなくてテレビのCMでやってる健康食品じゃだめですか?」
「下げられるなら健康食品でも特保食品でも何でも構いません。でも、ずっと飲み続けるという点ではクスリと同じですよ。むしろクスリには血圧を下げること以外の効果も期待されています。」
「でもクスリはちょっと・・・。まだもうちょっと頑張れると思うんです。」
「たぶんこれ以上自分をいじめても、あまり下がらないと思うけどなあ。毎日辛くなりませんか?」
「ああ、とうとう、クスリを飲まなきゃならないくらい悪くなったのかぁ!」
「あなたを見ていると、クスリを飲むことは末期の『敗北宣言』で、<内服するのは重病人>~そんな人間にならないように頑張ったのに報われなかった、と嘆いているように見えます。私もクスリは毒物だと思います。飲まないですむなら飲むべきではありません。でもそんな毒物でも飲んだ方がかえって質の良い人生を送れる人はたくさん居ますよ。」
「どういうことですか?」
「考えてみてください。クスリを飲みたくないがために日夜修行僧のような人生を歩み、それでも下がらなかったと暗いため息混じりの日々を悶々と送るのと、さっさと毒物を受け入れて『明るい病人』としてもっと他のことにエネルギーを費やすのと、どっちが健康的でしょう?」
「ん~。・・・でも、もう少し考えさせてください。」
「・・・。」
最近のコメント