敗北宣言 ~「やめられないから始めない」の真意~Part1
コラムを掲載している広報誌の秋号が発行されました。今回は同じ話を2パターン書いてみました。まず今日は、採用されなかった方を記録の意味であえて掲載します。
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「飲み始めるとやめられなくなるらしいから、クスリは飲みたくない!」
私が医者になった頃によく聞いたこの言葉がいまだにまことしやかに語られていることに驚きます。たとえば高血圧症のクスリ。高血圧症に対して早期からきちんと適正な内服を始めると約30~40%はやめることができると言われています。でも、飲むべき時期に飲まずに、もう元に戻れないレベルまで引っ張って飲み始めたらやめられなくなるのは当然です。早期のまだ弾力性のある血管であれば戻せる可能性がありますが、血管の壁に強い圧力が長期間加わって血管に硬化が始まってからでは元には戻れません。何よりも「やめられない人」はむしろ早くから飲み始めないと危ない人、ということでしかないように思います。
高血圧症治療の基本は、運動療法であり食事療法であり禁煙であり十分な睡眠でありストレスを取り除くことです。これらを若いうちからきちんと行うと高血圧を改善できます。でも、それを行っても十分な降圧が得られないのであれば、更なる修行僧の人生をどんなに上乗せしてもおそらく血圧は下がりません。体質とはそういうものです。下げられるならそれが健康食品でも特保食品でも構いませんが、ずっと飲み続けるという点ではクスリと変わりはありません。
内服を嫌がる人はたくさん居ます。「何でもしますから内服だけは勘弁してください!」とかかりつけの内科医に懇願して処方を先延ばししたり、処方されたクスリをそのままゴミ箱行きにさせたり、あるいはそんな医者の元を勝手に去っていったり・・・。そんな、内服を嫌がる人たちの心理が何となくわかってきました。「わたしは毎日何万歩も歩いているし、精進料理しか食べない人生をもう何年も送ってきた。こんなに頑張っているわたしが、なぜクスリを飲まなければならないのか?何が悪いのか?」・・・彼らの心の底にあるのは、クスリを飲むことは『敗北宣言』という思いのような気がします。<内服するのは病人><内服は堕落人間の証し>~自分はそんな人間にはなりたくないから頑張ってきたのだ!と叫んでいるように見えます。だからクスリの弊害や<クスリを飲むと病気になる>という意見を楯にしてなんとか現状を逃れようとしています。私も<クスリは毒物>信者ですので、飲まないですむなら飲むべきでないと思っています。でも、そんな毒物でも飲んだ方がかえって明るい質の良い人生を送れるはずの人はたくさん居ます。勿体ないなと思います。早く『明るい病人』になって、もっと他のことにエネルギーを費やしませんか?
「飲み始めるとやめられなくなるから、始めない!」・・・どうせなら、その言葉はそのままタバコに置き換えて、タバコ撲滅の『勝利宣言』ができる社会になってほしいものです。
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コメント
タイトルが長すぎる。一文が長い。小田島先生がシェイクスピアを訳す時には、一息で言える台詞を心がけたということです。完結な表現を心がけた方がいいかナ、と、思います。
投稿: イーダです | 2010年10月30日 (土) 21時32分
イーダ先生
書評をありがとうございます。
冬号、およびうちの施設の広報誌の文を書くときには肝に銘じておきます。
題名の~以降は必ずつけることになっているサブタイトルです。
投稿: ジャイ | 2010年10月31日 (日) 06時38分