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『合わせ技1本!』のメカニズム

連載中の健診シリーズ第5回(2012.1号)が公開されました。今回は挿絵も自分でパワーポイントを使って書きましたが残念ながらここではお見せできません。

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『合わせ技1本!』のメカニズム~動脈硬化の始まり~

『動脈硬化』・・・この用語、世間でもそれなりに認知されてきましたが、「動脈硬化って何?」と聞かれたとき、皆さんはどんな答え方をしているのでしょう? 分かるようで分からない、微妙に怪しい『動脈硬化』について整理しましょう。

●動脈硬化の始まり

動脈の壁は内膜、中膜、外膜の三層に分かれています。その内膜の表面(血液が流れている側)に血管内皮細胞という一層の壁があります。血液に乗ってやってきたリポ蛋白のうちLDLが最も酸化を受け易く(錆びやすい)、酸化(変性)LDLが内皮細胞の隙間から動脈壁内(内皮下)に入り込んだ瞬間、動脈硬化へのスイッチがオンになります。変性したLDLは生体にとってはまさしく“異物”、本来あるべきでないものは速やかに排除しなければなりません。その使命を担うのが単球という白血球です。変性LDLの血管壁内侵入を合図に、血管内皮細胞に向かって単球が呼び寄せられ、細胞表面にくっつき易いように接着因子も増やされます。単球が内皮細胞の隙間から壁内に入り込むとマクロファージ(Mφ)に分化します。Mφは別名“貪食細胞”と呼ばれ、とにかく何でも食い尽くします。酸化(変性)LDLを食ったMφは膨張した泡沫細胞と変わり、そして泡沫細胞が壊れてそこいらにぶちまけられる・・・動脈の内膜下が病的に肥厚して粥状にブヨブヨしている(アテロームプラーク)ものの正体は、そんな酸化(変性)LDLとMφの死骸です。このメカニズムは太古の昔から何も変わらないのに、今になって動脈硬化が大きな問題になっているのは、LDLを大量に含む食事(飽和脂肪酸)が増えたことよりも、引き金となる「酸化ストレス」が異常に増えたせいだろうと思われます。

●たとえば・・・

これまで3回に渡って説明してきた内容を今一度思い返してみてください。インスリン抵抗性などによる「食後高血糖」はそれを繰り返すたびに動脈壁の隙間から変性LDLを動脈壁の内側に引きずり込み易くさせますしそれを処理するための白血球(単球)を動脈壁にくっつきやすくさせます。LDLは血液中を流れている間は抗酸化物質に守られていますがひとたび動脈壁にくっつくと酸化を受け易くなり、多すぎるほど血管壁に留まる時間が長くてその分動脈壁内に引きずり込まれるチャンスも多くなりますし、中性脂肪の増加がLDLをさらに動脈壁内に入りやすいように加工します。血圧は高ければ高いほど、常に動脈壁に圧力をかけて小キズを付けて回り、コレステロールの動脈壁内進入をさせ易くサポートしています。そして、肥満やタバコやストレスや運動不足などと同様に高血糖も高血圧もそれ自体が酸化ストレスとして常にカラダに負荷をかけている、それがまさしく現代社会に生きる私たちの姿なのです。

●危険因子の合わせ技

プラークが成長して内皮細胞が持ちこたえられなくなると血管内膜は破れます。これがプラーク破綻で、一気に血液がよどみ始めて完全に詰まってしまうと梗塞になるのですが、プラークの破綻は必ずしも著しい動脈硬化の部位に起きるわけではありません。実際、心筋梗塞を起こした部位の約70%は、直前の冠動脈狭窄度がひどくなかった場所に起きています。何が違うかといえば、内膜表面の皮膜の厚さやプラークの安定性の程度です。安定した血管壁は皮膜が厚くて簡単には壊れませんが、不安定で薄い壁のプラークはちょっとした弾みですぐ壊れます。そしてそんなプラークの不安定さが、動脈硬化の危険因子の数に比例しているわけで、それが有名な「死の四重奏」のデータです。たしかにコントロール不良の糖尿病単独も危ないですが、ちょっと血糖が高くてちょっと小太りで若干高めの血圧でタバコがやめられない・・・そんな人は下手をすると健診で異常なしと判定されたにもかかわらず、その日の夜に心筋梗塞で倒れるかもしれないということです。

<ポイント>

付いて来られましたか?

・動脈硬化の始まりはLDLの酸化であり、酸化ストレスがそれを助長する。

・食後高血糖+高LDLコレステロール血症+高中性脂肪血症+高血圧(正常高値血圧)+喫煙は最強の布陣・・・合わせ技一本!の見事な連携で動脈硬化を加速させる。

・プラークの破綻は著明な動脈硬化部位に起きるわけではない。

・・・『動脈硬化』の実態を、何となくでもつかめてもらえたら幸いです。

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