Web公開中の健診シリーズ第6回(2012.3号)が公開されたそうですので、紹介します。今回はメタボの腹囲の話です。
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なぜそこまで腹囲にこだわる?~メタボ腹はラッキー!?~
平成20年に始まった特定健診・特定保健指導も丸4年経過しました。医療界やマスコミから批判され、「外国から嘲笑されている」とまで陰口を叩かれた『腹囲測定』も、それなりに落ち着いてきた感じがするのは私だけでしょうか。来年の見直しでこのシステムがどう変貌するかは分かりませんが、諸外国が基準から腹部肥満を除いても、あるいはすること自体が無意味だと揶揄されても、頑なに『腹囲測定』を必須条件から外さなかったことの意味を、是非理解しておいてください。
●マルチプルリスクファクター症候群
生活習慣病の代表である高血圧や糖代謝異常や脂質異常や肥満などはリスクが重積するほど動脈硬化を起こしやすく、その状態をマルチプルリスクファクター症候群といいます。これに類似する考え方(シンドロームX、死の四重奏、インスリン抵抗性症候群、内臓脂肪症候群など)をまとめる形で整理したのが『メタボリックシンドローム』です。つまり、動脈硬化性疾患(脳卒中や心筋梗塞など)を引き起こす原因に高血圧や糖代謝異常や脂質異常があり、その共通の基盤にインスリン抵抗性があり、それを誘起する主体が内臓肥満や内臓脂肪蓄積であり、その原因に運動不足や食べ過ぎや喫煙がある・・・そういう病態をメタボリックシンドロームと呼んで、それに合致する人はこの流れの上流を早めに改善させることで動脈硬化性疾患を予防できる、というものです。
●「生活習慣病=メタボ」ではない
ここで忘れてはならないのは、生活習慣病のすべてがメタボリックシンドロームではないということです。たまたま病気が重積しているだけのことも少なくなく、その場合でも重なる病気の数が多いほど脳卒中や心筋梗塞に罹りやすいのだから、腹部肥満を必須条件にしない方が動脈硬化性疾患に罹るリスクを検出しやすいのは当然です。ただ、この両者では治療のやり方が異なります。どちらも運動や食事に注意する必要はありますが、メタボが内臓脂肪量を減らす(痩せる)のが目標なのに対して、メタボでない生活習慣病では痩せても根本的な解決になりません。ですからこの両者の区別はとても重要で、その指標になるのが内臓脂肪量であり、その基準が腹囲なわけです。整理すると、高血圧や糖代謝異常や脂質異常が重なっている人のうち、内臓脂肪蓄積型(メタボ)の人は生活を見直して内臓脂肪量を減らせば病気の改善が期待できるけれど、内臓脂肪蓄積のない“たまたま病気が重なった人”はそれぞれの治療を受けなければならず早々に薬物治療が必要になるかもしれない人です。メタボ健診は病人を作るのが目的ではなく、むしろ自分で治せそうな軽症の生活習慣病の人を早くみつけ出すために始まったシステムですから、メタボ健診で引っかかる人の方がラッキーだといえるかもしれません。
●腹囲測定の問題点
内臓脂肪量の基準値はそのうち修正されますから、腹囲の基準値も変わるでしょう。腹囲85cmという数字はCT上の基準(内臓脂肪面積100cm2)になる平均値です。85cm以上なら内臓脂肪面積が必ず100cm2を超えているという意味ではありません。「1cm=1kgと考えて減量目標を定める」というのはあくまでも内臓脂肪が溜まっている人にだけ通用する理屈であり、筋肉や皮下脂肪で85cmを超えている“濡れ衣型”の人は痩せても改善につながるとは限りません。85cm以上のお腹の人は腹部CT検査を受けて本物か偽物か区別すべき、というのが日本肥満学会が最初にこの数字を提示した時の考え方です。
それでも“濡れ衣型”は自分の生活の見直しを求められるだけだからさほど問題ではありません。むしろ一番問題なのは、“捨てられる人”です。腹囲が85㎝未満で内臓脂肪面積が100cm2以上の人はかなりいるのに、こういう人は特保の対象として拾ってもらえない可能性があります。せっかくメタボの人をみつけ出すために腹囲測定をするのに、入り口で切り捨てられるのです。ですから、84.5cmで安堵するより無理に腹を膨らませて86cmにしておいた方が得だ、と受診者の皆さんには伝えています。どうせやるなら傍らでブツブツ言ってくれる人がいた方が絶対がんばれますから。
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