いつもの定期コラムの載った機関誌が発行されましたので転載します。最近は「楽しみにして読んでますよ」と受診者さんに云われることが増えました。嬉しいのですが、ちょっとストレスです。
***************************
朝、車で通勤している途中に何度も赤信号にひっかかる日があります。「今日は朝からなんて運が悪いんだろう」とぼやきたくなる日。そんな日に限って、自分の前の車が妙にトロい気がします。「何やってんだよ、こら!(もっと早く走ってくれたら信号が変わる前に通過できたのに)」・・・その車がやっと別の道に曲がったと思ったら、待っていたかのようなタイミングで別の車が割り込んできてこれがまたトロい。信号無視や運転中の携帯電話やウインカーなしの車線変更がいつになく多い気がして、そんな日は不愉快を昼まで引きずります。
ところがまったく同じ状況なのにそれがちっとも気にならない日もあります。「ひっかかるときはひっかかるものだなあ」と妙に感心し、信号停車の度に「となりの車は古いけどきれいだ。大事に扱っているんだろうな」「前の車はまあゆっくり安全運転だこと。たまにはこのまま付いて行ってみるか」「お、朝からワンの散歩。尻尾ふって嬉しそうに笑っているわ!」などとキョロキョロしていると、いつの間にか職場に到着。「意外に早く着いたな」と鼻歌交じりで車を降りる。こんな日は朝の目覚めから妙に爽快だったり、たまっていた仕事が片付いた後だったり、どこか自分の気持ちに余裕があるように思えます。
『テロメア』という名前を聞いたことがあるでしょうか。遺伝子情報を伝える染色体の一番端にくっついているDNA/タンパク構造で、細胞分裂するたびにこれが1個ずつ外れていきます。そして最後の1個がなくなったときに細胞分裂は終わりを告げ、そのときから老化が始まるのです。ですからテロメアが長いほど細胞が長生きで老化しないわけですが、実は、若いころから前向きで肯定的なことばをたくさん使ってきた人ほどテロメアが長いまま保たれていることがわかってきました。同じことを前向きにとらえるか後ろ向きにとらえるか、コップに半分入った水を「あと半分しかない」と思うか「まだ半分もある」と思うか、その差によって元気で長生きできるかどうかが決まるというのです。
赤信号に何度もひっかかってしまうとき、「今日はなんて運が悪いのだろう」と思うか「逆に運が良いのかもしれない」と思うかは、その日の自分の心の有り様です。「何やってんだよ!」と思うときは、相手が悪いのではなくて自分自身が単に焦っていたりイライラしたりしているだけです。どうせ同じことが起きるのなら前向きに考えた方が断然お得。わたしは、“朝の出勤時間は哲学の時間”ととらえることにしました。赤信号に対するその日の自分の感じ方を心の鏡として確認し、自分を客観的に評価する作業です。そうすると、いつの間にか周りの車の流れを気にすることが少なくなりました。わたしは、だんだん悟りの域に達しようとしております。
最近のコメント