この連載記事は全12回、今回で最終回になりました。続けたい気持ちは満載でしたが、もうネタがございません。
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忘れてはいけない、がん予防~日本人の死因の1位はがんです~
健診医になる前は循環器内科医だった私は、がん治療と縁のない人生を送ってきました(心臓にはがんができません。その原因が心臓から分泌されているANPという物質のせいらしいことが最近話題になっています)。そのためか、いまだにがん予防への思い入れがあまり強くありません。生活習慣病の双璧を成すがんと動脈硬化性疾患を比較すると、明らかに動脈硬化の方がやっかいで不治の病だと思うからです。
ただ、周知のごとく、日本人の死因の1位はがんであり、それは全体の1/3を占めたままです。死亡数の低下したものがあるとしても、必ずしも発症が減ったわけではありません。現代社会が生み出した運動不足や食習慣やストレスやあるいは環境汚染のもとで、がんは確実に増えています。
●がん検診の現状
がんは早期に発見して名医にかかれば治るから、自分の力で一生頑張らなければならない動脈硬化性疾患より気が楽だ(図)と私は思うわけですが、その代わり、がんを早期発見するための努力は不可欠。それが「がん検診」です。がん基本法に「がん検診を受けなければならない(国民の責務)」と謳ってあるにもかかわらず受けているのは国民の20~30%にすぎません。たしかに特定健診が動脈硬化予防に特化したためにがん検診は疎かになり、「補助金が出ないなら検診なんか受けん!」という人も少なくないでしょう。子宮がんや乳がんやあるいは大腸がんの罹患率が増えていると必死に叫んでも、どうもないのにそんな恥ずかしいところを曝すのはちょっと、と二の足を踏むのは人間として自然なのかもしれません。著名人や芸能人ががんに罹患する度にテレビやマスコミが大々的に報道します。すると健診や人間ドックの受診者が急増します。だから、彼らが早期発見の重要性を自らの口から話してくれる方が、我々や自治体が大声を張り上げるよりはるかに効果があるといえましょう。それでもブームは一時的ですし、1回受けて何事もなかったらもうそれで終わる人がほとんどです。むかし、まだ私が喫煙をしていた頃、肺がん予防セミナーに出席するために上京したことがあります。その新進気鋭の呼吸器外科医の熱いお話に聴き入りながら、「もうたばこはやめよう!」と心に誓ったのですが、その晩、東京駅近くのビジネスホテルに帰る途中で私は缶ビールと一緒にたばこを購入していました。“がんは怖い。進行すると命を奪う。予防と早期発見が重要だ”・・・わかっていてもなかなか行動に結びつきません。
●がんは不治の病ではない
がん予防に関する研究はさかんに行われています。“「がん研究」から「がん予防」へ”をスローガンに、国立がん研究センターでも研究報告が適宜発信されています。ただ、食生活とがんの関係はとても難しい・・・昨年の抗加齢医学会総会のシンポジウムを聴いてそれが分かりました。日本人の食事は複雑で、単品栄養素のデータを並べても実際にはあまり意味がない。その物質が身体に良いかどうかを調べるためにサプリを短期間に大量摂取してみること自体が不自然であり、結論は「質のバランス、量のバランスが一番大事」ということだけだ、という某教授の話が私の心に一番響きました。現時点で、日本人のがんに明確に影響を与えるものは、喫煙と感染(ピロリ菌やHPVなど)だけです。○○が胃がん予防に良い、と聞いてそればかり食っていたら脳卒中で倒れたとか、予防のために●●をサプリとして取っていたら返って別のがんのリスクが急増したとか、そういう話はざらにあります。質のバランスと量のバランス・・・“カラダに良いもの”はそればかり取るとただの「偏食」である。それは、動脈硬化予防の食事の考え方と何ら変わりません。
がん予防の最大にして唯一の武器はきちんとした検診を受けることです。動脈硬化は自分で頑張って修行僧のような人生を送れば何とか予防できるかもしれませんが、がんに勝つ最終手段は早期発見しかありません。その代り、早期発見さえできればがんは不治の病ではないのです。怖れず、億劫がらず、勇気をもってがん検診を受けましょう!
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2年間私のつたない文章にお付き合いいただいてありがとうございました。今回で連載を終わります。健診業務に携わるようになって12年、私の中ではっきりしてきたことがあります。予防医療とは、病気にならないように未病の状態から節制すること(させること)ではなく、“病気予防“”未病“などという概念そのものを考える必要のない人生を送る整備をする作業である、ということです。そんなことは医者や医療従事者のする仕事ではない!と嘲笑っていた方々もたくさん居ました(今も居るのでしょう)が、是非、そういう人たちに会わないですむ(縁がない)人生を送りましょう。
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