血の通ったインシデントレポート
日経メディカルオンラインの尾藤誠司先生のブログ「ヒポクラテスによろしく」の2013.3.7号に、「血の通ったインシデントレポートを書きたい」という文章が載っていました。
医療の現場では、インシデントレポートというのがあります。「ヒヤリハット」報告とも云います。ぼーっとしてて違う薬を注射しそうになったとか、血の付いた注射針が床に落ちていたとか、すんでのところでアクシデントや事故が起きそうになった事例を報告して皆が情報を共有することで予防の意識を持とう、というものです。でも、たしかにインシデントレポートは始末書的な要素があり、何か犯人探しと責任の所在の確認みたいなところがありますから、みんななかなか書きたがりませんね。真面目に書いただけ損、という感じはします。
そんな中で尾藤先生が書かせようとしたインシデントレポートはインシデントレポートらしからぬもの。持続点滴のルートが取れず何度も針を刺して結局患者さんに注射を拒否されたという出来事で、いつまでも自分がルート確保することに固執して薬剤投与開始が遅れたというインシデントではなく、「患者さんに気の毒なことをしてしまった」という感情を共有しようというものでした。医者は合法的に完全弱者の患者さん相手に危害を加えます。相手を押さえつけて刃物をかざしたり太い針を突き刺したり毒を盛ったりするのに有難がられる商売です。だからつい「してやっている」という錯覚に陥ってしまうバカがいます。未熟者のわたしに身を任せていただいたのに期待にそえるような処置をしてあげられなかったときは、素直に「申し訳ない」という気持ちを抱くこと・・・至極当たり前のことなのですが意外に今どきの若い先生方の中にはそういう感情の持ち合わせがない人も居るように聞いています。「『気の毒なことをしたのでみんなで反省したい』という意識を職員同士が共有していくことは、必ずその病院の文化を成長させる」という尾藤先生の考えにわたしも賛同します。
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コメント
防衛医大主席卒業?の研修医の先生の診察のお手伝いをしたことがあります。自衛隊の組織システム上階級ははるか下でも、人生の先輩である自衛官方を怒鳴りまくってました(笑)。
「お前は医学の勉強はもういいから、人に頭下げることを勉強して来い!」
と傍らにいた私は腹の中で思いました。
ヘルニアの手術で入院していたときお世話になった看護師が、臨床指導者になったとき、
「あんなに手厚く看護してあげたのに…。まったく」
あの、給料貰って、仕事としてやってるのに、恩着せがましく聞えるんですが(笑)。
人が病気になり死んでいくのが世の摂理。他人の「生殺与奪」を握る?と天狗になるのが人間の性かも知れません。ジャイ先生は良識派ですな、常識派ではなく(笑)。
投稿: コン | 2013年3月12日 (火) 23時09分
コンさん
お返事遅くなりました。私が研修医時代に汗だくで腰椎穿刺を何度も繰り返して「ごめんなさい」「ごめんささい」と言っていたら、「先生、そげえ謝らんでいいけん、代わりに良い医者になりなさいよ」って言われたことがあります。今でも、その患者さんとは連絡を取っていますが、「先生はあの時は下手だった!」といつもからかわれます。常に患者の皆さんのおかげで一人前になっていってることを忘れてはいけないと思います。
投稿: ジャイ | 2013年3月13日 (水) 19時43分