笑顔の裏側
「あそこの角を右に曲がったら階段がありますからそこで下の階に降りてください」・・・アテンダントさんが受診者の方に説明している声が聞こえます。
受診者さんがすかさず質問。「・・・そこって、どこですか?」
そうだよね、こういうことよくあるよね。わたしも昔は分かったフリして聞き流してしまって途方に暮れたことが何度かあって(聞いているつもりでいざそこにいくと、さっきなんて云われたっけ?と思い出せないことが意外に多いもの)、最近はよく聞き返します。「それ、どういう意味ですか?」って。
彼女はにこにこしながら詳しく云い直していましたが、実はどう思っているのだろう? 「わたしの説明のしかたがわかりにくかったんだろうな、勝手な思い込みは禁物。次から気をつけなきゃ」と反省しているだろうとは思いますが、逆に「うるさいなあ、このオヤジ。考えりゃ分かるだろ!」と思っているかもしれない。自分が質問する側に回ることが多いので、こういう社交辞令的笑顔の裏側って、とっても気になります。
そういえば、昔バブルがはじけた頃、若い銀行マンがわたしの職場に来て、わたしのメインバンクにしている支店のローンを全部まとめて自分の担当支店に移して借り直しをしませんかという提案をしました。どう話を聞いても自分に何の得もありません。「それ、わたしに何の利益があります?」と聞いたら妙に口ごもり、「結局あなたの業績をあげるためだけのことですよね」と云ったら押し黙ったので、それからくどくどと説教をしてしまったことありました。あのときの彼、今でもまだ銀行マンを続けているのだろうか。彼の、数字に対するアバウトさは絶対銀行マンには向かないと思ったのだけれど・・・。あの時神妙な顔をしてうつむいてうなずいてばかりいた彼、きっとアタマの中では「うるせえなあ、早く話し終われよ」と反発していたんじゃないかな。あの時に彼が少しでも反省できていたら今何かが変わっていると思うのだけれど、どうかな。 同じ銀行の従業員の方の診察をしながら、そんなことを思い出しました。
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