重篤感
先日、心電図検査室に呼ばれました。「胃透視を終えて帰ろうとしていた受診者さんが受付で『胸が痛い』と云われたそうで、今心電図を取りましたがSTが下がっているみたいなんです」と。確かに朝取った心電図波形と明らかに違っているのでこれは間違いなく狭心症発作です。今までこんな痛みは経験したことがないそうで、本人もとても苦しそうにしています。
「二トロはあるの?」「あら、二トロ。どこにあるかしら。先生、すみませんわたしはちょっとわかりません」・・・血圧を測ったりテキパキと記録をしたりしていたチーフの保健師さんが済まなそうに答えました。「いやいや、あなたが知らないのなら、知ってそうな人に電話して聞いて下さい。もしないのなら、さっさと救急外来に運びましょう」・・・その保健師さんは若い頃に救急現場を経験したこともあるのですが、そんな彼女も含めて妙に重篤感というか緊迫感が感じられません。受診者さんはもうすでに20分以上苦悶状の顔をして生汗をかきながら経験したことのない痛みに苛まれ続いているのです。なまじST上昇ではないから落ち着いていたのかもしれませんが、突然急変するかもしれません。少々焦ってもらって場を少し緊張させるために、わたしはそう指示しました。
結局、二トロを舌下させて回復を待つことなくストレッチャーで救急外来に運びました。外来に着く頃には症状が少し改善したそうですが心電図の回復は不十分で、そのまま緊急入院になったようです。こういう場合、あたふたする必要はないけれど、場に緊迫感を持たせて、普通ではないことが起きているのだということを皆が認識し合うことはとても大切です。医療現場から離れて健常者だけを相手にしているとつい忘れがちになることを思い出す機会になりました。
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