彼が笑った。
わたしが産業医をしている企業の社員さんの中に何人かメンタル障害で休職を余儀なくされている人がいます。先日、久しぶりに産業医面談をしたのはもう休職して2年近くになる男性です。それまでにも他の支店で何度か休職を繰り返している彼は『新型うつ』のレッテルを貼られて何かと適応できずにいましたが、新しい主治医との出会いで発達障害系のきちんとした診断を得、前向きに頑張っています。
その彼が、開口一番、「先生のお宅は、先日の台風の被害は出なかったですか?」と云いました。「おかげさまで大したこともなかったですよ」と答えると「それは良かった」と云って笑いました。
ありふれた会話だと思うかもしれませんが、わたしはとても感動しました。彼が産業医面談で他人(わたし)のこと、それもプライベートなことを自ら話題にしたことなど、これまで一度もなかったのです。笑い顔も見たことがなかった。いつも冴えないうつむきがちな表情で自分の近況を手帳の記録を見ながら鬱々と話すだけだった彼にとって、これは画期的なことだと思いました。
まだまだ職場復帰までは長い道のりになりそうですが、着実に良くなっている気がして嬉しくなりました。
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