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「天災と予防医学」

2年ぶりに依頼された原稿、内容を悩みました。結局、こんな文章になりました。もうすぐ発刊だと思います。

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『天災と予防医学』

ゴゴーッという地響きの度に地面に這いつくばり、目の前で瓦が音を立てて崩れ落ちる光景を呆然と眺めていた・・・あの夜からひと月半が過ぎた6月初めにこの原稿を書いています。こんな時に何を書いたらいいか悩み、締め切り間近になってようやく書き始めたところです。皆さま、ご無事でしょうか。おそらく皆さまがこの文章を読む頃にも、多くの方が震災前とはほど遠い日常生活を強いられていると思います。心身ともにくれぐれもご自愛ください。

「脂肪肝や内臓脂肪はいざというときのためのエネルギーの備蓄だから、よほどの天変地異でも起きない限り使うこともなく貯まる一方で、最後は倉庫の隅から腐っていく」などと偉そうに説明していた自分が、まさか被災者になるとは思いませんでした。取るものも取りあえず逃げ、飲むものと食べるものを確保することに必死という状況では、食事バランスがどうこうと考える必要もなければ余裕もないのは当たり前です。自分のカラダを実験台にして分かったことは、起きていれば水と炭水化物だけ食べても太らないということ。そしてタンパク質を食わないとみるみる筋肉がなくなり、脂肪を摂らないとエネルギーが足りずに疲労感が増すということ。日ごろ食べたいとも思わないものが無性に食べたくなったり、大好きだったものをそう食べたいとは思わなくなったりするということ。これは栄養学とか生理学とかいう付け刃の屁理屈ではなく、太古からの飢餓の歴史を乗り越えて生き延びてきた人類の経験則なのでしょう。こういう時には、素直に自らのカラダの求めに従って自然の摂理に身を置くしかないのだと学びました。

『予防医学』は直面した未曾有の天災を前にして無意味ではないかと悩んだ時もありましたが、そうではありません。今回の震災を経験した人の全員が、飢餓状態と極度のストレス状態にありました。一瞬パニクッたカラダはしっかり反省しています。二度とこんな慌て方はすまいと誓い、前よりも備蓄する力を増しているはずですから、このままでは前よりもはるかに貯めやすいカラダに変貌します。いわゆるリバウンドです。ですから予防医学の本当の出番は今からです。パンやカップ麺を貪り食ってきた生活に区切りをつけなければなりません。住む家が倒壊したり仮住まいだったり、あるいは自宅の荷すら元に戻せない状況下で、「それどころじゃない!」と拒絶するアタマを何とか説得しなければなりません。今回、多くの方々の支援によって、食べられることのうれしさをつくづく思い知らされました。電気が点くことや水道・ガスのおかげで料理ができることのありがたさが身に染みました。この経験を踏まえて、欲する時に欲する量を食べられることを喜びと感じるとともに、今まで以上に一噛み一噛みを大事に、感謝を持って戴くように心がけたいものだと思います。

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