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「その時は、来ます」

この機関誌冬号の発行はおそらく1月になってからです。今から推敲などが入りますが、とりあえず初稿原稿をそのまま転載させていただきます。

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「その時は、来ます」

「たばこを止めようかなと思った時は、迷わず禁煙外来に行ってください」と言ったら、「ははは。そんな日は絶対来ないと思いますよ」・・・そう答えて診察室を出ていきそうになった40歳前のスモーカー男性に、「そう思うでしょ。でもね、その時は、きっと来ます!」と、きっぱりと言い返してあげました。

たばこを止める理由は「健康に悪いから」とか「家族が懇願するから」とかいう大層なことだと考えている人が多く、自分はそんなこと如きで禁煙する気はないから「そんな日は来ない!」と言い切ろうとします。でも、実際の禁煙理由は必ずしもそうではありません。少なくともわたしがたばこを止めた理由は“健康のため”などではありませんでした。吸うことに何の意味も感じなくなる時が突然やってきたのです。わたしの口癖の「税収以外に価値がない」の意味が「あ、これか」と合点する瞬間。「そんなはずはない!」と自分に言い聞かせても、ただの“けむり”にしか感じられなくなる瞬間。それが突然やってきます。それを感じたときには自分に素直であってほしいと思います。「そんなのは勘違いだ」「プライドを持て」などと脳が必死に拒否させようとしますけど、意固地にならずに、とりあえず一度はこっそり禁煙を試してみましょう。

今まで続けてきた生き方を変えることを『行動変容』と言います。生活習慣病の治療の8割方は『行動変容』です。でも、そう容易くないことは皆さんの実体験でお分かりでしょう。生き方を変える時には何らかのスイッチが要ります。本人や身内の大病でスイッチが入ったり健診結果が想像以上に悪くてショックを受けたのがきっかけだったりすることもありますが、そういうスイッチは脆くてすぐに元に戻ってしまいます。一方で、ある時ふっと目の前に現れて(おそらく自分の体内から湧き出てくる自浄機能で)何となく押してみたスイッチの方が堅固だったりします。何となく押してみた。特別困らないのでそのまま続けてみた。いつの間にか習慣になった。不本意だけど、「ま、いいか」・・・ヒトの生き方は、理屈ではビクともしないのに些細なきっかけでコロッと転がって、その転がった方向から眺める景色を意外に気に入ったりすること、珍しくありません。

「その時は、きっと来ます。もしその日がきたら、その時には禁煙外来に行く勇気を持ってください」・・・しつこく言うわたしから怪訝そうに目を逸らしながら、彼はそそくさと診察室を出ていきました。

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