心筋梗塞と遺伝因子
いつも切れ味の良い分析をされる慶応大学循環器内科の香坂俊先生のドクターズアイの今回のテーマは、心筋梗塞の発症に遺伝子(一塩基多型(SNP))がどの程度関与するのかということです。
心筋梗塞の発症に家族歴が関与するのは明らかですが、わたしはそれは動脈硬化になりやすい危険因子の部分が遺伝する(たとえば高血圧や糖尿病や脂質異常など)結果として、脳梗塞や心筋梗塞の家族発症や兄弟発症が起こりやすいのだと理解していました。たとえ親類縁者に糖尿病や高血圧のヒトがいなくても潜在的に引き継いでいる危険因子の家族歴があるに違いない、と。
ところが今回紹介されたN.Engl.J.Medの論文研究は心筋梗塞発症そのものに遺伝的因子が関与することを示したものでした。3件の大規模疫学研究のデータ〔Atherosclerosis Risk in Communities Study (ARIC)、Women's Genome Health Study、Malmo Diet and Cancer Study〕を統合し、SNPの1つ1つを個別に検証せず、各変異にそのリスクに応じた重み付けをして検討したものですが、「遺伝スコアが高いと低い人より90%リスクが上昇」し、これは「喫煙や糖尿病といった従来からの危険因子に匹敵する」そうです。もともと遺伝因子が高い人が理想的なすばらしい生活習慣(たばこ、体重、運動、食事)を行っても、遺伝因子の低い乱れた生活の人とほぼ同じリスクになるというデータ分析です。
もちろん、だからこそ、遺伝因子のある人は人一倍生活管理が必要なわけですし、「遺伝スコアがどうであれ、生活習慣の良い方が予後は良いということを示しているので、いずれにせよ禁煙、減量、運動、健全な食事などといったライフスタイルの改善は引き続き推していく必要がある」ということに変わりはないのですが、「血は争えない」ということの意味がよく理解できました。
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