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ピロリ菌のいなくなった体内

先日ちょっとここで紹介した腸内フローラの入門書(と云うか専門書)である『腸科学』を読み進めていて、ひとつ気になったことがあります。それがピロリ菌に関する記述の部分です。

今は、ヘリコバクターピロリ菌が胃潰瘍や胃がんの原因菌であり、ピロリ菌がいることが証明されたら直ちに除菌対象にされる時代です。日本では、萎縮性胃炎や潰瘍があってピロリ菌抗体が陽性であることが確認されたら、健康保険を使って除菌治療を受けることができます。欧米では親になる前に除菌することで将来自分の子どもに引き継ぐこともなくなろうとしていると聞きます。『悪玉菌』のレッテルのもと、わずか数十年で腸内から絶滅の道をたどらされようとしています。日本でも、中学生全員にピロリ菌抗体検査を行う自治体が出てきています。

これによって、今の子どもたちから胃潰瘍や胃がんになる人が有意に減ることが予想されます。人間界の勝利に見えます。でも、もともと必要のない菌は体内にはなかったはず。ヒトと何万年も共存してきたこの細菌にはどうも免疫系のバランスを最適に保つ働きがあるらしいことがわかっているらしい。これがないと免疫系は攻撃すべき標的の見分け方がわからなくなると云う。実際、生まれた時から一度も胃の中にピロリ菌が存在したことのない子どもたちに喘息やアレルギーを発症する例が増えているのだそうです。

花粉症や喘息になるのと胃がんになるのと、どっちがいいか?などということを論じ合うことにさほどの意味はないでしょう。でも、ヒトと太古の昔から当たり前に共存してきた細菌は山ほどあり、ある時突然正義の使者を名乗る刺客が現れて、「お前は悪いヤツだから生きている価値がない」と云い放たれて絶滅させられてしまう。「あの子がいたから、平和を保てていたのに」と残されたモノたちが嘆き悲しむ・・・そんな事件、これからたくさん出て来るんじゃないかしら。そうだとしたら、なんか、とても寂しく不安な流れという気がするのです。

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