除菌のメリット
「除菌しなくていいですよ」
わたしが15年近く受け持っている受診者の女性が悩んでいたので、そう答えてあげました。75歳近い彼女がピロリ菌抗体検査を受けて陽性だったために「ピロリ菌除菌治療依頼書」(医療機関に持っていけば除菌治療が受けられる様に発行させた紹介状)を受け取ったそうで、そのために治療を受けるべきかどうかかなり悩んでいたのです。
実の姉を胃がんで亡くして間近い彼女ですし最近胃の調子が良くないことを訴えてはいましたから、本来なら1週間の内服治療だけで済む除菌治療を勧めるところではありますが、何しろ薬剤を受け付けない体質の彼女。ヨクイニンや精神安定剤の類いでも調子が悪くなったり動悸がしたりして続けられないことがよくあります。抗生剤や消炎剤の服用を1週間継続することがどれだけ至難の業か想像が付きます。でも真面目な性格の彼女は、飲むべきものを飲めないことに罪悪感を感じて、自分は胃がんになるしかないのかと悩みかねません。
それでなくても頻回に胃カメラを受けている彼女にとって、この歳でそんな思いまでしてピロリ菌除菌に固執する意義はきわめて低いと考えています。世の中、「ピロリ菌が陽性なら速やかに除菌すべきだ」という風潮ですし、「除菌しないといつ胃がんになるかわからない」「除菌できれば胃がんリスクがなくなる」と勘違いしている人も少なくないようです。若いヒトの除菌は明らかに胃がんリスクを低減させる(除菌できても胃がんにはなります)から無理してでも除菌を勧めますが、胃潰瘍や十二指腸潰瘍を繰り返しているわけでもない高齢者にとって、除菌の成功と生きている間に胃がんにかかる確率とにはほとんど相関はないのではあるまいか。若い世代ほど除菌の意義は高いけれど自分ががんに罹ると思っていない世代だから興味がなく、今から除菌しても萎縮性胃炎が消滅するとは思えない高齢者ほど切実な想いでリスク低減に心を悩ます。半端な情報はかえってストレスを増やすのではないかと考えさせられる経験でした。
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