番外:還暦祝いの挨拶(5/7)
(つづき)
そんなわけで、とりあえず健診センターに異動して頃合いを見て地方の病院に就職するのがいいかなと目論んだのですが、なんやかやとありまして、結局そこから17年間、しがらみの中で働くことになってしまいました。この間に、父親の急死や家庭内別居やうつ病に苛まれる時期を経験することになりました。
人生初めての”うつ”はかなり辛かった記憶があります。1、2時間しか眠れない日が1、2ヶ月続きました。円形脱毛症になり噴門部に大きな胃潰瘍ができ、いろいろな人の言葉がリフレインしてきて、「自分はこの組織に必要な人間なのだろうか?」と悩みながら、悶々として眠れないまま朝を迎える日々。この職場を辞めようと何度も思いました。でもこのとき、わたしの心の中に大きな波が襲ってきたのです。「自分は、何のために医者になった?」という初心の確認。組織がどうだとか、自分が組織にどう見られているとか、誰が自分を誤解しているとか、そんなことはどうでもいいのじゃないか。自分が医者になった理由・・・目の前にいる患者さんに寄り添って、良い人生になれるように手助けをしたい、という強く純粋な想い。それをいつの間にか忘れてしまっていなかったか。今の自分は、自分自身をその原点に立ち戻らせるべき時だと神様が教えてくれているのではないのか・・・そんな想いが一気に押し寄せてきて、気付いたら辺りに立ちこめた霧がウソのように晴れていました。
私の医者としての転機。医学部を卒業して地元に帰ったこと、大学を辞めて今の病院に就職したこと、最も信頼していたボスが志半ばにして逝かれたこと、予防医療の世界に移ったこと、そして、うつ病になったこと・・・幸いなことに、どれも私を前に前にと押し出してくれることばかりでした。今思えば、すべてが必然。優秀な科学者になることもなく、何か大きな功績を残すこともなく、誰かに自慢できる技術もないけれど、それでもここまで大きな力で導かれた結果のような気がしています。 (つづく)
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