『大切な人を連れ出そう』
連載コラム4月号が発行されましたので、転載します。
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『大切な人を連れ出そう』
「健康づくりのためには、運動をすることが重要だ」ということを、みなさんは知っていますか? 「いまさら何を言っている? 当たり前だろ!」と思いますか?
「みなさん方の大多数は、たぶん誤解しています」・・・昨年、ある医学学会のパネルディスカッションで、座長の先生が開口一番そう言い放ちました。日本で生活習慣病予防のための運動量が足りない人は全人口の約7割いるそうですが、実は“わかっているけどできてない”という人はその中の3割弱で、残り7割強はそもそも健康的な生活を送ることに興味がない(健康無関心層)のだそうです。つまり、日本国民が運動不足なのは、その重要性を知っているのにしないからではなく、それが重要かどうかを知らない(あるいは知る気がない)人が多いからだということになります。私たち予防医療に関わる医療者や行政機関の担当者は、日々運動の重要性を啓発して回り、どうやったら行動に移してくれるか試行錯誤しながらあちこちで健康教室やイベントを開いているというのに、そして毎日のようにテレビでは健康番組をやっているというのに、そんなことは世の多数派である健康無関心層にはどうでもいいことで、「今運動している人や今後やりたいと思っている人は自分から健康情報を集めるけれど、それ以外の人はそもそも聞く耳を持たない」のです。
この健康無関心層に運動をさせるためには、健康への興味などに関わりなく、とにかく彼らを引っ張り出すしかありません。社会の空気を変えなければ人は変わらない・・・つまり、健康に興味がある人もない人もひっくるめて社会全体が自律的に動く風土を作るしかない。ある健康イベントに参加した人のアンケートで「なぜ参加したのか?」という質問に、「家族や友人が誘うから」という答が一番多かったそうです。あるいは「参加賞に景品をもらえるから」と。彼らを引っ張り出すのに必要なのは、そんな健康とは無関係な理由です。運動したら健診データが良くなるとか認知症が予防できるとか、そんなことでは動きません。隣県の大分には『おおいた歩得』(日常のウォーキングや健診受診、健康イベント参加などで健康ポイントを獲得して、それが貯まると県内の協力店舗で特典がもらえる)というスマホアプリの取り組みがあります。健康や運動に興味がなくてもポイントを貯めたら何かもらえるアプリ・・・こういう取り組みがうまくいくと社会は変わるかもしれない、と個人的には注目しています。でも、そんなものの成果を待たずとも今すぐできることがあります。みなさんの周りにいる、みなさんにとって一番大切な人をとにかく連れ出しましょう。理由なんか要りません。おそらく今この文章を読んでいる方は健康無関心層ではないでしょうから、辺りを見回して目についた健康無関心層と思しき仲間を、早速連れ出してください。
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