適材適所
与えられた仕事をきちんとできないと、『できない人間』というレッテルを貼られるのではないかという不安が生じ、なかなかプライドが邪魔をして「わたしにはできません」と答えられない社会人が増えていると聞きます。その結果、職務に対する期待を全うできないままにメンタル障害になる。なんとも勿体ない人生です。
ある成績優秀な新人ナースが患者さんの願い事を聞いてくれないと苦情を云われ、そのことで師長が注意をすると、「わたしは何も間違ったことはしていないのに・・・」と不満気な表情をしたそうです。「あなたは患者さんの気持ちを汲んであげたいとは思わないの?」と聞くと、「これまで『他人の気持ち』などわかろうとしたこともありませんし、それはわたしの仕事に必要だ思ったこともありません」ときっぱり答えたそうです。
むかし(今でもそうかもしれませんが)、救急現場では一刻一秒の判断が人の生死に関わるので、テキパキできる人が「できる人」、すぐに対処できずにモタモタしている人は「できない人」と云われていました。前者の方が後者より「優れている」と云い切った医者もいました。でも、その「できない人」と救急現場の医師や師長に思われていたナースや研修医が、一般病棟に入院している患者さんの横に寄り添ってじっと話を聞いてあげている姿を見ると、この人を「できない人」と考えるのは間違いだと確信したことを思い出します。一方で、毎日のように救急現場で本領発揮している医者が退院サマリーを大量に貯め込んでいたり、数日受け持ち患者さんに会いに行ってない、ということもありました。
これらは、「優れている」とか「劣っている」とかいう問題ではなく、「向いている」「向いていない」の問題です。ヒトには自分の性格に合った仕事というのがあります。適材適所・・・救急医療で本領発揮できるならあとは何でもできるとか、医療現場で一流の医療者は健診や人間ドックなどの現場をこなすことなんて簡単だとか、そういうの、全然間違いです。そういう多様性の中で皆(特に上に立つ立場の人間)が広い視野に立って見極めてくれさえすれば、もっともっと活かされて溌剌と生きていたであろう人はたくさんいるだろうと思います。
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