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胸部レントゲン写真

世間の皆さんは、一定の経験年数を経た医者なら(年数なんて関係ないと思っている人も少なくないかもしれませんが)同じレントゲン写真を見たら同じように診断できると思っていませんか?

わたしが今の職場に就職したころ、うちの病院には放射線科医はいませんでした。胃や脳や心臓や、各々の臓器の治療のスペシャリストたちの集団であるという自負がすべての医師にあり、診断に必要な検査は自分でオーダーし自分で判読しきちんとした診断を下せるだけの実力があるから、わざわざ画像診断だけをする医者なんて必要ない!と拒絶していたのです。そんな職場だから、一番最初にうちの病院に派遣された放射線科医は本当に苦労したと思います。

でも、彼らが来て初めてわかりました。彼らには、わたしたちには見えていないモノが見えているということが。

一枚の胸部レントゲン写真がシャウカステンに掛けられている(シャウカステンとか今やどこにもないのかも)として、わたしたち循環器内科医は心臓の様子や大動脈の様子や心不全になっていないかを診ます。呼吸器科医は肺がんや炎症所見がないか、あるいは肺気腫になっていないかを診ます。でも、放射線科医はもちろんそのどれもを診ますが、さらに骨や皮下組織や胃や横隔膜や首や甲状腺や腕や・・・写真に写っているものすべてを診ます。わたしたちには見えなかった骨折や皮下腫瘍や甲状腺腫が見えています。さすがは読影のスペシャリストだなと感心したものです。わたしも今は予防医学のスペシャリストとしてかつての放射線科医と同じようにレントゲン写真の隅々までチェックするようになり、臨床医だったころには見えなかったものが少しは見えるようになった気はしますが・・・まだまだです。

どんなものでも、目の前に同じモノがあったら皆が同じモノと認識できているとは限らないということは、社会生活をしていたら皆経験していることだと思います。見たくないから見ないでいることも多々あるでしょうが、いつもとは違う角度から眺めてみる、あるいは見えているモノを隠して眺めるなどの試みは、やってみて損はないように思います。

 

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