« 結果説明のモットー(1) | トップページ | 結果説明のモットー(3) »

結果説明のモットー(2)

(つづき)

わたしたちの仕事は、毎年ご指名いただく常連さんやたまたま何度も担当になって顔を知っている方を除けば、基本的に初対面の人を相手にします。なのに、高々10分か15分で話が完結するのです。だから、会ってすぐに心を開いてもらわなければなりません。わたしたちの施設では、説明の順番を待つ間、結果表のコピーを渡して前もって見ておいてもらうようにしています。そうすると、名前を呼んだときにきわめて神妙な顔つきで入ってくる人がたくさんいます。明らかに構えて入ってきます。自分のデータから何を云われるか、毎年のことだからほぼ想像がついているのです。聞く耳を持たないか、とにかく聞き流そうと準備している様子が顔の表情にありありと表れています。この人たちの心を開くのは意外に大変です。でも意外に簡単です。こうやって診察室に構えて入ってこられる方には、まず最初に全く関係ない項目から説明を始めることにしています。胸部CT検査や胃内視鏡検査、あるいは腹部エコーなど画像診断の画像から入るようにしているのですが、順番に画像を眺めながら説明をしていると、少なくともわたしがどんな感じの人間であるかは感じ取ってもらえます。そして、心の準備をしている生活習慣の悪さを非難する人間ではなさそうだということも感じてもらえるとしめたものです。もちろんCTでは内臓脂肪の多さを、腹部エコーでは脂肪肝のなんたるかをそっとインプットさせます。ここで少しでもコトバのやりとりができればおそらく受診者の多くは少しだけ心を開いてくれています。そうすると、その後インスリン初期分泌不全の何たるか、何をしたら良くなりそうか、具体的に何をしようか・・・そんな建設的な会話をすることができて、診察室を出ていく頃には温和な顔に変わってくれているのです。

「こんなに詳しい話をしてもらったのは初めてです。本当にわかりやすく説明してもらってありがとうございました」・・・こういうコトバをよくもらいます。でも実は何も特殊なことは話していません。同僚や上長が試しにわたしの説明を聞いても「全然普通じゃないか」と拍子抜けされます。そうなんです、別に他の人より長く話しているわけでもない(むしろわたしが一番説明時間が短いらしい)し、説明する項目を省略しているわけでもない(原則としてすべての項目を説明しています)のです。それでもこんな感想をしていただけるのは、おそらく、相手が心を開いてくれたからだと思っています。短時間で相手の心を開いてもらう唯一の方法は、会ったら可及的速やかにわたしの心を開いてしまうこと、あまり意識したことはないけれど、きっとそういうことなんじゃないかなと思っています。しかめ面で憮然とした表情で部屋に入ってきた人が10分後にはニコニコして出て行きながら「ちょっと頑張ってみます」と云ってくれたときが一番うれしいです。

まあ、行動変容の難しさは、そんな顔して出て行っても大部分は何も変わらないということなのですが。 (つづく)

|

« 結果説明のモットー(1) | トップページ | 結果説明のモットー(3) »

心と体」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




« 結果説明のモットー(1) | トップページ | 結果説明のモットー(3) »