自覚症状
先日、人間ドック受診者の心電図を判読していたら、1年前と全く違う波形に変化した人がいました。この1年間のうちに心筋梗塞を発症してしまったことを示す所見(陳旧性心筋梗塞の所見)です。健診をしていると、こういう知らない間に心筋梗塞を起こしてしまった人が時々います。高血圧症などで外来通院しているにもかかわらず、気付かれていないパターン。それは「自覚症状がない」から、主治医にも話さないし、そのために病院を受診することもないからです。でも、実際に診察をしてよく話を聞いていると、決して「症状なし」ではないことがわかります。
「ちょっと胸が苦しい時期があった」「何か胃が痛い感じがした」・・でも、しばらく様子をみていたら軽くなったのでそのまま放置した・・・後から考えれば、そのときに急性心筋梗塞になったことは間違いないのでしょうが、心筋梗塞と云えば”七転八倒の尋常ではない痛みと苦しみ”というイメージがあるので、よもや心臓のトラブルだとは考えもしなかったでしょうし、幸い、ちょっと様子をみていたら改善したわけだから、このために病院に行くことはしないでしょう。「歳のせいかな」「ちょっと飲み過ぎたかな」・・・自分でこっそり反省して、こっそり解決させる・・・おそらく、専門家であるわたしでもそうするのではないかと思います。わたしが長い間悩まされている逆流性食道炎にしても、自分はきっと逆食だと思い込んでいるし、逆食の薬を飲んだら改善したから、たぶん犯人は逆食だと自己診断するわけだけれど、逆食の所見と虚血性心疾患の症状とが区別つかないことは自分でよく分かっているつもりです。
急性心筋梗塞は、突然心臓が破裂したり心不全になったりあるいは危険な不整脈が出たりして発症直後の死亡率がとても高い病気です。だから、「ちょっとでも変だったらすぐに病院を受診して」「ダメ元だから」と、わたしたちは簡単に云いますが、そりゃ尋常じゃない痛みが出れば救急車を呼ぶかも知れないけれど、典型的ではないどちらかというと軽い程度の症状があったら、「とりあえず様子見」が世の常です。
理屈で考えるよりはるかにむずかしいのが現実です。
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