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特発性(とくはつせい)

「父が”とっぱつせい”血小板減少性紫斑病になったそうなのですが、これは遺伝しますか?」

先日、人間ドックの結果説明をしているときにそういう質問を受けました。

「”とっぱつせい”? ”とくはつせい”じゃないですか?」と聞き返しましたが、「父からは”とっぱつせい”と聞きました」との返事。気になったので、早速ネット検索してみましたが、やはり難病指定になっているのは『特発性血小板減少性紫斑病(ITP)』であり、「突発性」ではありませんでした。

保健師さんが聴取した問診にもよく『突発性心筋症』とか書かれていて、そんな病気あるのかな?と首をかしげることがあるのですが、音が似ているものだから、世の中『特発性』と『突発性』を混同している人が多い気がします。医療者の中にも混同している人がいるのではなかろうか? 前者は「原因不明(Idiopathic)」という意味であり、後者は「突然に発症する」という意味。混同するはずがなさそうでしてしまうのは、おそらく音が似ているからであり、世間の人は「突発性」は聞いたことがある(突発性難聴とか突発性発疹とかを経験しているから)けれど「特発性」などという医療用語は聞いたこともないから、知っている用語に頭の中で処理してしまうのではないかと推測します。病気の発症も突然ですし、日本人の発音として「トクハツ」の「ク」は発音しにくくてつい促音「ッ」になってしまいやすい(特価とかの同じだし)ので尚のこと。しかも驚いたことに、Googleで『突発性血小板減少性紫斑病』を検索するとちゃんとヒットします。それを開けてみると勝手に『特発性血小板減少性紫斑病』に変換されていますが、どこにも「特発性の誤用」という注意書きがないので、ヒットした時点で「やはりこの用語で間違いないのだな」あるいは「突発性と特発性は同じ使い方をするのだな」と思う込んでしまうのではないかと疑います。試しに、誤用が多い『突発性心筋症』もググってみると同じようにヒットし、開けてみると何事もなかったかのように『特発性心筋症』に置き換えられていました。

同じような混同(漸増(ぜんぞう)を「ざんぞう」と読んだり、「相殺(そうさい)」を「そうさつ」と読んだり)は世の中に多く、間違いが気になりながらもそのうち「誤読」から「どっちでもよい」に変わっていくのだろうなと諦めてきていますが、さすがに医学用語はそもそもの日本語訳の時点で別のものなのだから、「特発(とくはつ)」を「とっぱつ」と読んでははいけないのではないか?と思います。

 

 

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