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タガメット

『タガメット』(シメチジン)という薬は、遠い昔、わたしが国家試験に合格して研修医になった年の数年前に発売された胃潰瘍の薬です。H2ブロッカーというこの薬は胃酸の分泌を強烈に抑えてくれて、今までなかなか治らなかった胃潰瘍治療を画期的に改善させました。その前なら普通に手術になった症例も治してしまい、わたしが医者になった当時、すでに胃潰瘍で外科治療を受ける例はほとんどなくなっていました。

 そんな画期的な新薬(夢の薬)を大学病院では普通に使っていましたが、わたしが夜間当直のアルバイトに行っていた地方の開業の先生(消化器外科が専門の先生でした)はタガメットを決して使いませんでした。「まだ、発売されて数年の薬をそう簡単に信用してはいけない。本来出るべき胃酸を強烈に抑えて、それで人間の身体が正常を保てるはずがない。わたしは恐ろしくて到底使う気にはなれない」と云っていたのを覚えています。「田舎の年寄りの医者は偏屈で頭が固いから困るよ」と大学病院の消化器の先生方は嘲笑していましたし、当時はわたしもそう思っていました。

結果として、タガメットは30年経っても身体に大きな負の影響は与えていないように見えます(もっとも、時代はH2ブロッカーの時代ではなくプロトンポンプ阻害剤の時代からさらに新しい機能の時代に移ろうとしていますから、タガメットなんて若い先生は使ったこともないのかもしれません)。でも、これはあくまでも結果でしかなく、人体実験をするのは医師の良識に反するモノ。新しいモノが出たからといってすぐに飛びつくべきではないというバイト先の先生の考え方はよくわかります。一方で、たとえ人体実験になるとしても、新しいモノを自信を持って使っていかなければ進歩はありません。これまでの歴史の中でも医療の進展には必ずワサモンが存在し、試行錯誤の中で治療薬や治療方法は飛躍的に進んで行ったのは事実です。現在の新型コロナウイルスのワクチンにしても、遺伝子に作用させる薬剤である以上、賛否両論の存在は当たり前ですが、その正誤の評価は歴史が決めるしかないわけで、今現在、ワクチンを否定する人も肯定する人も各々の信念の元で受け止めて、少なくとも他人に行動を強要すべきモノではないはずではあります。「おまえが受けないから集団免疫ができあがらないのだ」と受けない人をバッシングすることだけは避けてもらいたいと思うひとりです。 

2017年度 高松赤十字病院モーニングセミナー資料> 

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