一旦植え付けられた知識は修正しにくいもの
”マーガリンは長年、健康に悪いと言われ続けてきた食品だが、2018年以降の米国では、バターよりも健康的な食品になっている可能性を報告する論文が、「Public Health Nutrition」に11月2日掲載された。筆頭著者である米ミネソタ大学のCecily Weber氏は、「マーガリンは心臓の健康にとってバターよりも優れた選択肢だ。特に、硬いスティック状のタイプではなく、タブやチューブなどの容器に入っている柔らかいタイプが最良の選択肢と言える」と述べている。”
この文章の冒頭『マーガリンは長年、健康に悪いと言われ続けてきた食品』というコトバに違和感を覚える人は特にわたしの世代では少なくないでしょう。なぜなら、昔は、「動物性であるバターより植物性であるマーガリンの方が健康的だ」と云われていたからです。少なくともわたしが研修医時代はそう教わりましたし、患者さんにも話していました。ところが、マーガリンは液体の油を固形に固める過程でトランス脂肪酸が作られ、それが動脈硬化を助長するから、むしろマーガリンよりバターの方が健康的だ!と突然逆の説明がされ始めたわけです。もうそんな騒動があってから15年~20年近くになるのでしょうから、世の若い人たちはマーガリン=トランス脂肪酸の知識がインプットされていることでしょう。
企業は常に技術的進歩を追求し、「ダメだ」と云われている原因を取り除く努力を惜しみませんから、不健康食品のレッテルを貼られた製品をこっそり生まれ変わらせて不健康の原因を取り除くことはよく行います。このマーガリンの変身もその最たるモノでしょう。ただ、大変なのは、「不健康」としてインプットさせたモノを「健康」に変換させるのはきわめて困難だと云うことです。一旦誤情報を流したあとにどれだけ訂正とお詫びを繰り返してももう広まった誤情報を完全に消し去ることは不可能である、ということは世間のゴシップや風評被害を考えれば明白でしょう。わたしたちの世代などは、一旦逆に修正させられた後に再び元に戻させられるわけで、「もうわけわからん」ということになりますから、無理してバターをマーガリンに換える必要性を見いだせない気がします。
まあ、あと20年もすれば「マーガリンの方がバターより健康的」が普通の常識に替わっているのでしょう。あるいは、「マーガリンもバターも五十歩百歩。昔はそんな不健康な食品を口にしていたなんて信じられない」となっているやもしれません。
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