薬を出す先生
人間ドックで精査や治療を要する結果が出た場合に医療機関を受診する勧奨をするわけですが、かかりつけ医がない場合に初めての人間関係ができることになります。医療機関受診の初対面って、たぶん結婚のお見合いをしたときの初対面よりも敷居が高いのだろうと思います。わたしたちが紹介して、一年後に「あそこの先生は信用できなかったから受診をやめた」というパターンの双璧は、『最初からすぐにたくさんの薬を出す先生』と『ほとんど詳しい説明をしてくれない先生』・・・もちろんこれは受診者目線でのレッテルですけど。
先日受診した方も、「昨年高血圧で紹介状が出たから自分で調べて近くのクリニックに行ったけれど、大した検査をすることもなくたくさんの薬を出されて、2週間後に受診したけれど血圧管理の評価をするでもなくまた薬をくれた。ほとんど説明もないから不信感が増して病院を換えた」と云う。たしかにあそこの先生は「たくさんの薬を最初から出すために受診を自己中止した」と云う受診者が少なくありません。件の受診者は他の医療機関に行って、「今は食生活に注意しながら経過観察をしてもらっている」と安心顔で語ってくれました。
でも、どっちの先生が厳しいのかと云えば、明らかに後者です。前者の先生は「値を管理するために食事や運動を理論通りに徹底するのは大変だし、今までと比べものにならないくらい厳しく自己管理することなど現代社会人はまず不可能だから、儚い期待に賭けるのではなく、取り返しの付かない合併症を起こす前に早々から薬剤で確実に管理するのが健康的な選択だ」と考えているのではないかと思います。当てにならない生活管理より薬剤管理の方が確実で安定したコントロールができるというのがポリシーでしょう。
「まずは生活療法から」は常套手段なのですが、人は自分で云うほど頑張りません。「薬が要らないのだからまだ軽い方」と思い込んでしまって、形ほども努力しない(例外的にがんばる人は確かに居ますが、大多数の凡人はしません)。高血圧症のための塩分管理を5g/日未満にするなんて、塩分好きの日本人(特に高血圧患者)には生殺しもいいところ。というか、たぶん味がなさ過ぎて吐き気すら催すかもしれません。「当てにならない温情は何もしない状態よりむしろ悪い」ということを薬処方好きの先生は何度も経験してきているに違いありません。
まあ、かく云うわたしは「くすりは極力少ない方がいい」というポリシーで診療していましたから、タイプからすれば後者。本来の人間の姿に戻るべく”性善説”で相手の努力を促すタイプ。相手を信用(信頼)しているのではありません。「できるものならやってみろ。薬を飲まないで頑張るというのは生半端な頑張りでは通用しないのだぞ」と密かにいじめているタイプ。とんでもない悪魔でありました。わたしなんかは絶対に開業医に向かないタイプなんだろうなと思います。
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