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辞める理由

最近、わたしは夕方の諸会議を休ませてもらうことが増えました。もちろん、「理不尽に管理職から退くように云われているからそんな会議に出る義務はない」という腹いせ的な意味もないわけではありませんが、本当の理由はワンズを散歩に連れて行かないといけないからです。「プライベートの用事でどうしても早く帰らないといけないので、どうもすみません」とお茶を濁していますが、会議をサボりたいのではなく(少しはそんな気持ちもないわけではありませんが)2匹のワンズの散歩をするのが理由です。ビアデッドコリーという犬種は体重が20キロ前後はあるまあまあ大きな牧羊犬で、メスでもそれなりの力があります。昨年秋に足を骨折した妻に委ねるのはちょっと無理があります。突然何かが起きたら制御が効かなくなる危険性があるからです。でも、正直、会議を欠席する理由が「イヌの散歩」とはなかなか公には云えません。仕事してまがりなりにもたくさんの給料をもらっているのだから、仕事優先すべきでしょう!と多くの人が思っているでしょうから。

わたしがまだ若かったころ、とても優秀な外科部長がおられました。救急部門を担当しながら神業のような早くて丁寧な素晴らしい手術をするということで病院中でも有名な先生でした。そのうち、この病院を背負っていく医師のひとりだろうと云われていたほどでした。その先生が突然辞表を出して、地元の小さな病院に移ることになったと聞いたときにはとても驚きました。「どうして?」と聞いたら、「ここは忙しすぎてイヌの散歩をする時間が取れないから」と答えたのを今でも鮮明に覚えています。先生の飼っていたイヌはアフガン犬というとても大きくて優雅な風貌の犬です。奥様が難病になり、「独りで散歩させるのがちょっと難しくなったんだ」という退職理由に、「そんな程度の理由で辞めるなんてあまりにも勿体ない! 社会のためにもっとその腕を発揮すべきじゃないのか」と、素直にそう思ったものです。ちょっと寂しそうに、ちょっとはにかんで「じゃ」と太い手を小さく上げて去っていきましたが、あれからすでに30年以上、今のわたしは当時の先生ほど組織に必要不可欠な立場の人材ではないかもしれませんが、それでも今なら彼の大英断の理由がとてもよく理解できます。愛犬を可愛がっていればこその選択。プライベートに後悔ない生き方をしてこその社会貢献だという選択を、仕事至上主義真っ只中だった時代にされた先生は、今思うととてつもなくかっこ良かったと思います。

 

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