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『わかってもらう』

コラム定期連載の機関誌が発行されましたので、いつものように転載します。今回は2008年10月にわたしの職場で発行していた機関誌に掲載したものを加筆訂正して出しました。今また多くの人に読んでもらいたくて職場の許可をもらって再掲載することにしました。

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『わかってもらう』

「それは辛かったでしょう。もう大丈夫です。一緒に治しましょう」

私の妻がある漢方医院を受診して、これまでの様々な症状と辛い治療の歴史を話し終えた時、じっと聞いていた先生がやさしい眼差しでそう言いました。それを聞いた瞬間に感動で涙が出そうになったそうです。「今までそんな言葉をかけてもらったことがなかったのですごく救われた気がした」と語る妻の顔はどこか晴れやかでした。ある講演会で心療内科の先生のお話を聞きました。「体中が一日中痛くて辛い」と訴える患者さん、旦那さんのツテを使って有名な大学教授や名医にかかったけれど全く治らなかった女性に約45分間の初診面接を行いました。「ありがとうございました。何かとても楽になりました。これまでどんな偉い先生にかかっても私の苦しみをわかってもらえなかった。私の“痛み”をきちんと聞いてくれたのは先生が初めてです」・・・患者さんはそう言って帰りましたが、1ヶ月後に受診した時には痛みは半分に減っていたそうです。

相手に「わかってもらえた」と実感できる瞬間があります。何も解決していないのにそれだけで少し幸せになったりします。症状が改善した心療内科の患者さんのアンケート調査で、「なぜ良くなったと思うか?」の問いに、その25%は『安心感、信頼感』、20%は『具体的な説明』と答えたそうです。一方で、「わかってもらえていない」と感じることは、その何十倍も経験します。「そんなことじゃない。どうしてわかってくれない?」と、イライラしたことは誰にもあるでしょう。夫婦や恋人同士なら間違いなく喧嘩になります。医療の場では、医療不信のきっかけとなりドクターショッピングにつながるかもしれません。「わかってもらう」ということがどんなに幸せでかつ難しいことかがわかります。

前述の講演会では、元プロ野球選手の掛布雅之氏のフリートークもありました。彼は最後にメッセージを残しました。「主治医との心のキャッチボールをきちんとしていますか。キャッチボールは野球の基本です。投げる方は一番受け易い球を投げ、受ける方は投げる人の気持ちになって確実に心をキャッチする。その基本がなかなか出来ていない気がします」・・・ここに『わかってもらう』の極意があるように感じました。患者さんの主治医への想いはとかく片思いになりがちです。「私の思いに気づかないのは相手が聞く耳を持たないからだ」と不満を持ち続けていませんか? キャッチボールは投げる側の投げ方も大切です。患者さんと主治医が同じ球でキャッチボールするためには、どっちも心がお留守になってはいけないのだということを再確認させられました。

 

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