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固定観念

「じゃ、診察着の紐だけ開けてください。下のシャツはそのままで大丈夫です。シャツの上から聴診器を当てますから」

寒いので診察着の下にアンダーシャツや肌着を着ている受診者の方は割と多いのですが、その場合はいちいちそれをめくりあげることはせず、その上から聴診することが多いです。もちろん、皮疹や皮膚の色を観察するためには脱いでもらうのが本当なのでしょうが、健診ですし、朝はまだ聴診器が冷たいこともあり、今時のアンダーシャツは薄くて十分聴診音が聴き聞き取れるのでそのまま聴くようにしているわけです。20年くらい前はそんなことしてたら「ズボラをかましている(手を抜かれた)」とクレームが来たものですが、最近はそんな投書は受けていませんので、不本意な人もおりましょうが、わたしはそうすることにしています。

ただ、大きな声で「シャツの上から聴きます」と云っているのにそれを聞き流すかのようにわざわざシャツを捲り上げる人がなんと多いことか。「ちっ、はなし聞いてないな!」と思いながら無理やり下ろしてもらうのも意味はないから直に聴診器を当てるわけですが、彼らは「同じ金を払うのだからズボラはさせない」と考えているのではなく、「聴診は裸で受けるもの」という固定観念があるから、それが当然だという思いで一気に脱いでしまうのだと思います。

子どもの頃に刷り込まれた固定観念は修正が難しく、思ってるのと違うことをさせようとするともすごく訝しげな顔をされるので、あまり逆らわないようにしています。例えば首の触診で何も云わなくても特異な姿勢(当然のように前に倒す人もいれば頭を後ろに倒して首の前方を見せようとする人もいます。多分前者は頸部リンパ節のチェック、後者は甲状腺の触診が目的だと思われ、かかりつけの内科に行ったときに医者がどっちをさせる習慣かによるみやい)をとったり、胸に聴診器を当てた瞬間に過呼吸を始めたりする人たち。彼らはわたしたちがスムーズに診察できるように最初から気遣いしてくれているわけだから、それに逆らうことなく診察をします。わたしも医者歴が長くなったから、それくらいの臨機応変さは身につけております。

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