『それは無理?』
今回も定期連載の機関誌が発行されたので、転載します。
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『それは無理?』
「『無駄に動け、無駄に食うな、さっさと寝ろ、イライラするな、ゴロゴロするな』を心がけましょう」
これは、わたしが予防医療の世界で働くようになって、生活習慣病予防の極意としていつも口にしているフレーズですが、こう言うと「それは無理」と即答されるのは、運動でも食事でも睡眠でもなく、“イライラしない”の部分です。「だって、仕事でも家庭でもストレスだらけですもの」「少なくとも今の仕事をしている限り、無理です」と言い切られます。でも、本当はそういう人こそ『イライラしないように心がける』ことが大事なキーワードなのだと思っています。別にお釈迦様のように悟りを開けと言っているわけではないし、できるはずもありません。でも、“心がける”ということだけで、1年後には心身にのしかかるストレスがいつの間にか半減していることに驚くはずです。癪に障ってしょうがないかもしれませんが、周りの行動や社会の諸々にイライラしたところで、どうせ周りは何も変わらず、自分の心身に悪影響で返ってくるだけのことだからそれは損でしかない。いつも他人の行動にイライラしてばかりだったわたしがそんな心境に変化したのはいつの頃だったか。
かつてのわたしの上司は若い頃はものすごくせっかちで、短気で、いつもイライラして怒っているような人だったそうですが、わたしが彼の元で働き始めた頃には信じられないほど穏やかになっていました。「ボクはね、自分のこの性格が心筋梗塞を起こす危険因子になると分かっているから、かなり努力したよ。仕事から帰る時にね、車のキーを今までは病院の建物を出たらすぐに手にしていたけど、それを駐車場の車の前に到着するまでポケットから取り出さずに我慢したんだ。大したことじゃないと思うかもしれないけど、それだけでも全然違うんだよ。これをやって“気を長く持つ”ことを少しずつ学習したんだよね」・・・キーレスエントリーの時代にそんな話を書いても若い人はピンとこないでしょうが、この話は、彼が生前に書いた本や講演会でよく紹介されていました。わたしには直接その話をしていただきましたから、よほどわたしの性格がご自分の若い頃に似ていて心配だったのでしょう。残念ながらその頃はまだピンときていませんでしたが、今になって、せっかちでイラちな性格は動脈硬化を増長させるということが実感としてわかるようになりました。「もっと早くに悟っていたらなあ」と後悔することしきりです。
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