『肝(きも)に銘じる』
定期の機関誌が発行されましたので連載コラムを転記します。先月分と一緒に書き上げておいたのでもう長いこと触っていない文章ですが、やっと世に出ました。
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『肝(きも)に銘じる』
「貴殿の仰(おお)せを肝に銘じて、より一層精進(しょうじん)いたします。」
テレビのリバイバル時代劇を見ていると、こんなフレーズをよく聞きます。『肝に銘じる』というのは「しっかり心に刻み付けて忘れないようにしておく」という意味ですが、「”こころ”に刻みつける」のに、決して『心に銘じる』とか『脳に銘じる』とか言いません。どうしてでしょうか。きっと、心臓や脳はすぐにごまかしたりウソをついたりする臓器で、しかも忘れっぽいから今一つ信用できないということを先人は知っていたからでしょう。たしかに、“こころ”はいつもどこか移り気で、喉元過ぎればすぐに忘れてしまうもの。その点、肝臓は真面目に黙々と働く臓器だから皆からの信頼が厚く、一度銘じたら本当に一生忘れずに覚えていてくれる感じがします。肝臓は物言わぬ臓器でありながら生命の源の全てを制御するもの・・・決して裏切ったりしません。そうですよね、それが肝臓ですよね。
昔から『肝腎要(かんじんかなめ)』と言うように、肝臓の次に信用できてしかも生命維持に重要な臓器は腎臓・・・循環器内科が専門である私としては『肝心』として腎臓より心臓の方が重要だと言いたいところですが、やはり心臓は“こころ”と書くだけのことはあって、どこか軽い。まあ、それが取り柄なのでしょうけれど、こういうときには二の次、三の次に回されるのもいたしかたありますまい。
ただ、肝臓も腎臓も生真面目で一途すぎるのが玉に瑕(きず)です。大したこともないのにすぐに「動悸がする!」とか「めまいがする!」とか大騒ぎする心臓や脳と違って、肝臓や腎臓は滅多なことでは根を上げません。『沈黙の臓器』というキャッチフレーズに恥じないほどに、どんなことがあっても表に出さずにひとり黙々と頑張って頑張り抜きます。そして、その挙句に前触れもなく突然力尽きたりする困った堅物(かたぶつ)です。症状がないので、健診などで異常を指摘されて精査を指示されてもついつい放置しがちですが、肝臓も腎臓も一定レベルより悪化すると機能が元には戻れなくなる危険性がある臓器。時期を逸すると取り返しのつかない事態になりかねません。最近はマスコミや自治体広報などでも肝臓病や腎臓病の怖さをさかんに告知していますが、あれは決して大げさなことではありません。精密検査を指示されたら一度は必ず専門医の元を尋ねてください。
もちろん、「異常だ、異常だ!」と大騒ぎしている心臓や脳もたまに本物のことがあるので無視はできませんが。
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