『ステージA(前)』
定期発行される機関誌の冬号が発行されました。掲載しているわたしのコラムを転載します。今回は高血圧のはなし。2回に分けて掲載してもらうことにしました。甘く見てはいけない高血圧と心不全の関係のはなしです。
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ステージA(前)
「血圧130を超えたら、専門家に相談だ!」
そんなテレビCMを見たことがあるでしょう。これをネット検索すると「大げさだ」とか「こんな広告戦略に惑わされるな!」などといった批判ばかり並んでいますから、心配になって調べた人は「良かった」と胸を撫で下ろしているかもしれません。でもこれ、決して間違いではありません。
『血圧』とは“心臓から送り出される血流が血管の壁を押す力”です。血圧130mmHgとはどれほどの力なのか? それは、水銀(Hg)の柱を130mm=13cm押し上げる力のことです。昔は血圧を水銀柱の血圧計で測っていたからこういう単位なのですが、水銀が使われなくなっても水銀柱を基準にし続けているというのも可笑しなものです。水銀は水より13.6倍重いから、これを水柱に置き換えると130×13.6=1768(mm)、つまり"水を177cmの高さまで押し上げる力"。血液の比重が1.05ですからそれを血液に換算すると約168cmです。高血圧の基準である140mmHgなら約180cmの大男の身長の高さまで血液を吹き上げる力ということになります。そんな強い圧力が全身の動脈の壁にまんべんなくかかり続けているわけですし、その圧力と同じ力が心臓に向かって押し返されるのですから、ものすごいことが体内で粛々と行われていることに驚かされます。
若いうちからこんな力を毎拍動ごとに受け止めている動脈壁には感謝しかありません。血圧が原因で心電図の変化が出てきたり息切れ・動悸症状が出始めたりしたら、それはかなり長い間の負担のなれの果てだということがお分かりでしょう。自覚症状が出るまでほったらかしたら元に戻れないレベルに進行しているかもしれません。自分の血圧を今すぐ見直してみてください。朝の安静時に低くても安心はできません。一日中ぼーっとした人生を送ってはいませんから、仕事中だけ緊張して180mmHg以上になる人などざらにいます(かく言う私もその一人でした)。仮面高血圧といわれるこうした血圧変動は、ずっと高値のまま野放しの高血圧の人と同じ脳卒中発症率ですが日ごろを知らない分だけ危険だと言われています。この変動幅が大きいほど脳卒中で亡くなる率が高いことも分かっています。
新年早々から脅すようなことを書きますが、実は今高血圧が問題になっている理由は、脳卒中や心筋梗塞や動脈解離といった急性の合併症のためではなく、真綿を絞めるように静かに襲ってくる“心不全”が急増している原因のひとつだからです。症状がなくても、高血圧症は『ステージA』という心不全の分類に入っているのです。(次号に続く)
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